芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。
ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。
1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の耽美な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。
あらすじ
帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。
その息子の名前は光源氏。
世の人が賛美するほど美しい青年に育った源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。
世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨へと忍び込む......。
感想
古文の授業では文法を理解する必要があって小難しい印象がある作品ですが、小説家が現代語訳しただけあって、本書はさらさらと読みやすく楽しめる商品になっております。
いかにも「平安時代」な挿絵もふんだんに収録されており、時代の雰囲気を味わうことができます。
ライトノベル感覚で通勤・通学中にさらりと読めてしまうくらいの手軽さで、連作短辺なのもあって手軽さはかなりのものです。
そして中身なのですが、これはもう評論しつくされているので私がとやかく言うのも野暮でしょう。
あえて表現するならば「やりすぎな(超)古い少女漫画」。
美しい女性を発見→源氏が閨に忍び込む→後ろめたさがあるので抵抗しつつも源氏の情熱的な口説きの前に身体を許してしまう→源氏or女性が事後に罪悪感で身悶える、の繰り返しで話は進みます。
幼女から熟女まで、田舎娘から帝の娘まで、あらゆる「属性」の女性を出してくるところはどんな読者にとっても「共感できる登場人物」が存在するようにしようという紫式部の作家魂が感じられますね。
その中でもやはり紫の上がメインヒロインで、後にも先にも十歳前後で源氏を夢中にさせ、拉致にまで至らしめたのは彼女だけです。
源氏にとって、ひと時の関係でよいと思った女性は数知れませんが、紫の上だけは「この美少女を自分好みに育て上げたい」と感じて攫うのですから、その魅力は相当なものなのでしょう。
数々の女性遍歴を重ねながらも、紫の上の死をきっかけに源氏が出家を決意するという展開で締めくくられるのも、長大な物語が原点回帰で終わるという展開が好みの人にとっては堪らないのではないでしょうか。
また、源氏の息子である夕霧は奥手な性格という設定にして、雲井の雁との純愛エピソードを描くことで中盤~終盤にかけて物語の幅を広げてくるのも良いですね。
源氏が強引に女性を襲うパターンに辟易としているところに純愛という清涼剤が投入されることでメリハリがつきますし、この夕霧という純情者を応援したい気持ちも高まります。
このあたりになって、源氏が初めて妻を寝取られる(女三宮と柏木)という展開で運命の因果応報を源氏が感じる箇所も良いアクセントになっています。
最後まで様々な形で波乱を演出し、最後は原点回帰で終幕する。
平安のエンターテイメント作家、紫式部の面目躍如を感じました。
気軽に源氏物語を楽しみたいならば間違いなくお勧めの一冊。
源氏没後を描いた「宇治十帖」が未収録なのが残念ですが、それでも値段には見合う本です。
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