2019-08

中勘助

小説 「銀の匙」 中勘助 星2つ

1. 銀の匙 大正から昭和にかけて活躍した小説家、中勘助の代表作です。夏目漱石が本書を絶賛して東京朝日新聞への連載が決まったことから中勘助は小説家として見出されていきました。また、灘中学校において橋本武先生が三年間の国語の授業を本作精読に使っていたという、伝説の授業に関連する書籍としても名前を知られています。 2. あらすじ 主人公である「私」は時々、書斎の棚から小さな銀の匙を取り出して眺める。それは虚弱体質だった「私」に薬を飲ませるために伯母が探してくれた特別な匙だった。 痩せぎすでぼんやりとした子供だった「私」。療養のため引っ越した小石川でもその引っ込み思案は続いていたが、伯母の紹介でお国さんという女の子と遊ぶようになる。お国さんと遊ぶうちに積極性が出てきた「私」だったが、学校へ入学する年齢になると「どうしても学校には行かない」と駄々をこねるようになり......。 3. 感想 夏目漱石の絶賛や橋本先生の言葉に違わず、美しい日本語によって書かれているというのは納得できましたし、その濃やかさがひたひたと心に染みわたるような感覚になったのは...
湯神くんには友達がいない

漫画 「湯神くんには友達がいない」 佐倉準 星3つ

1. 湯神くんには友達がいない 2013年から「週刊少年サンデー」で連載されていた作品で、今年(2019年)の7月に最終巻が発売され完結となりました。連載中にアニメ化がされることもなく、超有名作とは言い難いですが、月イチ連載とはいえ週刊誌掲載をやり切って円満完結(おそらく)した作品ということもあり内容はなかなか充実しておりました。 分類としてはコメディ(ギャグ)漫画であり、実際なかなか笑わせてくれるのですが、安易に俗っぽい笑いを取りに来るのではなく、人間心理の深いところを探求し、それをユーモラスに表現しているのが本作独自の魅力になっています。高校生あるあるを交えながら、ときに寂しさや切なさ、やりきれなさといった感情を絶妙に表出させることでほろっとくるような展開もあるという作品で、まさに現代版人情コメディという呼び名が相応しいのではないでしょうか。メタ表現や特定クラスタのネタに頼らず、万民向けの普遍的な笑いと感動を追求している作品です。 2. あらすじ 高校二年生の綿貫ちひろ(わたぬき ちひろ)は転勤族の父を持ち、これまでも転校を繰り返してきた。しかし...
☆☆☆(新書・教養書)

教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その2

1. 単一民族神話の起源 その2 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」「 日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」。 日常生活のから政治の場まで、いたるところで耳にする、ある種の「日本人単一民族」論。 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来るのか。 明治時代から遡り、その起源を明らかにする「単一民族神話の起源」の感想その2です。 前稿である「その1」はこちら。 「その1」では「第一部 『開国』の思想 」について記述しましたので、本稿では「第二部 『帝国』の思想 」及び「 第三部 「島国」の思想」 を取り上げます。 2. 目次 第一部 「開国」の思想第二部 「帝国」の思想第三部 「島国」の思想 3. 感想 第二部では、日本が「帝国化」していく中で唱えられた様々な民族論が紹介されます。 まず最初に紹介されるのは、歴史家である嘉田貞吉の取り組...
☆☆☆(新書・教養書)

教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その1

1. 単一民族神話の起源 その1 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」。政治に関心のある人ならば、そんな言説をどこかで耳にしたことがあるかもしれません。 あるいは、「日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」くらいならば政治に関係のない(と言うと政治に関心の高い人からは怒られるかもしれませんが)日常生活の中でも一度は聞いたことがあるに違いありません。 しかしながら、 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来ているのでしょうか。 よくよく考えるまでもないことですが、人類の祖先はアフリカのとある地域から世界各地へ広がったのですし、定住が始まって以降も世界との様々な交流の中で人類の混血は進んでいて、何がしかの意味で日本人(その定義自体も微妙ですが)の起源が特別に単一であるということはないでしょう。それでも、私たちの日常生活には広く「単一民族意識」的なものが敷衍しています。 「民族」という言葉はそれこそ定義...
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