「タッチ」「みゆき」等で有名なあだち充さんの作品。
高校水泳部を舞台にしていますが、ストーリー展開はいつものあだち充パターンが全開。
スポーツ万能な主人公、訳ありな関係の幼馴染、立ちはだかるライバル。
そして誰かが死ぬ(もしくは重傷)。
その意味であだち充らしさがふんだんに盛り込まれた作品なのですが、悪く言えば「あだち充止まり」の作品。
ファン層以外には受けづらいのではないでしょうか。
一般的な漫画ファンとしては+αが欲しいところでした。
あらすじ
舞台は私立栄泉高校水泳部。
競泳の大和圭介と飛び込みの二ノ宮亜美は幼馴染だがぎくしゃくした関係。
その理由は、お互いの実家がライバルの和菓子屋であること。
しかも、先代が経営していた際に「やまと」が「にのみや」のパクリ商品で人気を得てしまったという因縁があった。
高校生活の偶然を通じて誤解が解け、惹かれあう二人。
しかし、二ノ宮に想いを寄せる人物がもう一人いた。
その名前は仲西弘樹。
自由形100mの日本記録保持者である。
恋と水泳。
大和はその両方で仲西に勝つことができるのだろうか......。
感想
悪い点はないのですが、良い点もないというのが本作の印象。
大和と二ノ宮のぎくしゃくした関係はラブストーリーの掴みとして良い役割を果たしていると思うのですが、そもそも、その原因がお互いの単純な誤解にあるというのが厳しい。
あらかじめ用意されている誤解がとけたというだけで二人の恋愛に対する障害がなくなってしまうのですから、二人が恋愛成就のために決定的な努力を行ったり自分自身を変化させるという展開がなく、ドラマや葛藤が生まれません。
また、脇役たちもいいやつばかりなのですが、それが結局、ストーリーをワンパターンにしています。
悪い奴が現れ(あるいは事件が起き)、それを大和とその同級生たちが有り余る才能で解決し、ちょっと余韻の引く台詞を言う。
それを繰り返すだけの漫画になってしまっています。
粋な場面は多いのですが、どれも一つ覚えのようなベタな粋さであり、時代劇の再放送を見ているかのような錯覚に陥ります。
加えて、ライバルである仲西弘樹のキャラクターもイマイチです。
物語冒頭時点で既に日本記録保持者という設定に無理があり、大和が普通に戦っては絶対に適わない相手になってしまっています。
そのため、仲西を怪我させることで最終決戦において同じ土俵に立たせるという演出になっているのですが、手負いの仲西に勝ったことで水泳でも恋愛でも大和が勝ちました、というのでは味気なさすぎます。
平常状態では大和と仲西のレベルが離れすぎているため、二ノ宮を巡って二人が切磋琢磨するという熱い場面がほとんどなく、全体的にストーリーが薄くなっていました。
さらに、どの登場人物も凡人にはない傑出した能力を持ちすぎており、コンプレックスもいまいち少なく、一般読者の感情移入を促す要素に乏しいのも残念なところ。
熱心なあだち充ファンなら読むべき、という程度の評価が妥当でしょう。
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