2015~2016年における大ヒット漫画の一つで、名前くらいは聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。
「このマンガがすごい!」などでランキング上位入りを果たし、累計発行部数は500万部近くに到達。
アニメ化はもちろん、土屋太鳳さんと山崎賢人さん主演で実写映画にもなっています。
高野苺さんが漫画家としてジャパニーズドリームを掴んだ作品ともいえるでしょう。
おおまかな感想としては、「未来から手紙が届く」というSF要素と王道少女漫画展開を合わるという手法が斬新で(意外にもこれまでなかったんですね)、画力も高く、双葉社版の装丁も魅力的で大ヒットしたのは頷けます。
ただ、主人公二人の魅力と、物語の作り込みという点ではイマイチな点が多く、じっくり読んで味わうには不十分だと感じました。
後世に残る作品というよりはカジュアルに消費されていく作品の成功作という印象です。
あらすじ
舞台は長野県松本市。高校二年生に進級した高宮菜穂(たかみや なほ)は、始業式の日の朝に奇妙な手紙を家の郵便ポストに発見する。
差出人は10年後の自分で、自分が経験した後悔を繰り返さないようにするため、手紙の内容の通り行動して欲しいという内容の文面。
半信半疑の菜穂だったが、学校に行くと手紙の内容通りの出来事が起こっていく。
手紙の内容をひとまず信じることにした菜穂だったが、先々の日付の手紙を読むうちに、菜穂はある「未来」を知ってしまう。
始業式の日、転校してきた成瀬翔(なるせ かける)が、三年生に進級する前に自殺してしまうというのだ。
菜穂たちのグループの一員となり、友達となり、菜穂と両想いになっていく翔。
彼を救うため、菜穂は手紙通りの行動を起こしていくのだが......。
感想
本作品は「リア充文学」的な側面がありまして、ヒロインである菜穂が所属しているのはスクールカースト最上位グループの5人組なんですよね。
須和弘人(すわ ひろと)はサッカー部のエースで、明るく面白く頼りになる男子。
普通の少女漫画でヒーローを務めてもおかしくなく、実際、翔が自殺した未来では菜穂と結婚しています。
村坂あずさ(むらさか あずさ)はいわゆる「ギャル」で、ファッションセンスとツッコミのセンスに長けたムードメーカー。
萩田朔(はぎた さく)はお笑いを愛する変わり者で、男子ながらグループのマスコット的存在。いじられ役でもあります。
茅野貴子(ちの たかこ)はスタイルのいいクールな女子で、ハイスペックなお姉さん的ポジション。
この男女5人グループにイケメンの翔が入ってきて波乱を起こすという、まさに「神々の戯れ」的な領域での物語というわけです。
そんなわけで、人間関係を主題にした作品にありがちな陰気で惨めな葛藤はありません。
おそらく、漫画家とか小説家という人種はそういった陰気で惨めな葛藤に苛まれたり、通常では想像もつかない奇妙なことで悩んだりするので、こういった「平均以上の人々にとっての普通」を素直に描いていけるという技量は漫画界の中では希少性が出るのだと思います。
言わば「恋空」的な斬新さだと表現できるでしょう。
「恋空」の筋書きはその購読層とってリアルなのですが、漫画家や小説家は「恋空」の購読層になるような人物である確率が低く、そういった「恋空的リアル」を体験しないで大人になってしまう人がおそらく多いのだと思われます。
いまやリア充的な人々さえ(大人になってからも)漫画を読む時代ですから、彼ら彼女らにリアリティやノスタルジーを感じてもらえる作品、という需給ギャップたっぷりのブルーオーシャンに投げ込まれた本作はマーケティングの大勝利なのだと思います。
高野苺さんがこういった「リア充文学」を描けるという点で卓越しているのはもちろん、そこに可能性を見出した編集者や出版社もあっぱれです。
また、そういったリア充文学だからこそ出すことができる、葛藤なき素敵行動連発の爽快感。
そのテンポの良さがページをどんどんめくらせていくんですよね。
友達のためにこんなことをやるぞ、と決めたら躊躇いなく実行していって、どんどん距離を詰めて華やかな想い出をつくっていく感じです。
友情の基盤がしっかりしていて、自分たちの行動はイケてて恥ずかしいことなんかじゃないという自信が(というかそんなことも意識しないのでしょうが)あって、だからこそ「素敵な」大胆行動ができる。
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