1. 逢沢りく
第19回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した本作。「きょうの猫村さん」で有名なほしよりこさん作の長編漫画です。
ストーリーといい絵柄といいかなり珍しいタイプの漫画でしたが、漫画という表現方法の新境地を開拓する作品だったと思います。
2. あらすじ
主人公、逢沢りくは都内在住の女子中学生。特技はいつでも嘘泣きができること。美しい彼女の涙には誰もが寄り添おうとしてしまう。そんな彼女の家庭環境はちょっと特殊。
テレビは見させない。食事は自然食品だけ。とにかく潔癖なママ。
とある会社の社長でイケメン。会社のアルバイトの女性と浮気中のパパ。
上辺だけの生活に毒された彼女の心に、本物の喜びや悲しみが宿ったことはない。
しかし、ある日、彼女は関西へ転居することになる。東京とは異なり、賑やかな親戚のもとへ引き取られたりくであったが......。
3. 感想
不思議な漫画でした。
いかにも「東京の準富裕層」な家庭で窮屈に育てられた女子中学生が、関西の暖かな雰囲気に触れて少しずつ心を氷解させていく。そんな単純な物語なのですが、鉛筆書き(?)のシンプルな線で描かれた絵がかえって日常の鬱屈した単調さ、まさにモノクロな人生を強調しているのが特徴です。
とはいえ、ストーリーはやや単純すぎ、かつ極端すぎると思いました。東京の中産階級~準富裕層といっても、あそこまで極端に「マダム」ぶる家庭はそうそうないでしょうし、また、関西がコテコテの関西弁だらけで、誰も彼もウザ絡みしてくるしつこい人間だというのもやや地域に対する偏見が大きすぎると言えるでしょう。
加えて、りくの心が変わるきっかけとなるのが親戚の時男くん(4歳)の難病なのですが、これも、現実を考えれば相当珍しいケースでありましょう。「都市部の準富裕層」の生活、「関西の一般家庭」の生活、「病気を抱えた小さな男の子」。このどれかでも(できれば全て)現実に寄せなければ、どの層の読者からも決定的な支持を得られないと思います。
逆に言えば、「都市部の準富裕層家庭の中学生」が抱えそうな悩みを、「関西の一般家庭」で本当に起きてそうなことが徐々に溶かしてゆき、「少し困難を抱えた小さい子供」の(現実的な)最後の一押しという構成にすれば、もっと名作になれたところがあり、もったいなく感じました。
とはいえ、派手さ、けばけばしさを増す一方の近年の漫画界に堂々と反旗を翻すような、静かでささやかで、しかしほんわりと熱いものがこみあげてくるような作風には今後も期待したいところ。
普通の漫画では飽き足らない方、もしくは、普段から小説等を好む人にオススメできる漫画だと思います。
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