1. ディアナ・ディア・ディアス
SFやコバルト系の作品が有名で、当時としては斬新な文体で小説界に衝撃を与えた新井素子さんの(隠れた?)佳作です。新井さんの小説はライトノベルの草分け的存在と言われますが、むしろテンプレートが重要視されつつある近年のラノベとは明らかに一線を画す、いつ読んでも新鮮さが失われない作品です。
2. あらすじ
はるか昔、「南の国」では王位継承に特別なルールがあった。それは高貴な血統である〈ディア〉の純血でなければ王位に就くことができないというもの。〈ディア〉の純血とは、両親が共に〈ディア〉の純血であり、そのまた両親も〈ディア〉の純血であることを意味する。純血を守るために繰り返されてきた近親相姦はやがて子を宿す能力さえも先細らせてゆき、ついに〈ディア〉の純血はたった二人、王女ディアナと、左の聖大公家の次男、ティークだけになってしまう。 本来ならばこの二人が結ばれてディアナが王位を継ぐはずであったが、ディアナの叔父であり暫定王のカイオスは、陰謀によりディアナを第一将軍ムールのもとへ嫁がせてしまう。純血によって継承されてきた高潔な王位は絶体絶命だと思われたが……。
ディアナがティークの不義の子を身籠ったことから運命は狂気の方向へと動き出す。
3. 感想
中学生の時に読んで衝撃を受けた作品です。
世の中に物語は数多あれど、「近親相姦によって保たれている純血の王位の運命やいかに」 などというものは私の聞く限りこの一冊だけです。しかも、あまりにも濃すぎる血のために狂気に囚われてしまうディアナや、虚弱体質で見るも痛ましいながら手を尽くして王位を狙うディアナの息子カトゥサ。気弱で芸術家気質ゆえに自分を貫けないティーク、朴訥で実直な将軍ムール、そして巨大な野心で王位の正式な簒奪を図ろうとするカイオスなどの登場人物たちも、明らかに「キャラクター」でありながら、読み応えのある物語を形成するのに欠かせない「生々しさ」を持っており、非常に魅力的です。親子二代に渡る物語に、「東の国」との争いといった国際関係的要素も加わり、実質的には王宮におけるごく内輪での話にも関わらず、ダイナミズムに富んでいます。独特な口語体も相まってなかなか説明が難しい作品ですが、読んでみれば、小説という概念を別角度から見られるようになるのではないでしょうか。
とはいえ、星3つとしたからには、難ずべき点もあります。 まず、実質的な主人公であるディアナの息子、カトゥサの口癖が「論理的な帰結、もしくは推理」なのですが、非常に寒い台詞です。大したことないような推測にさえこれを用いるのですから、読んでいるほうが恥ずかしくなります。他にも、それほど重大でない事柄に対する気取りすぎな表現が散見され、「そこまでか?」と思うことが少なからずあります。次に、悪い意味で先が読めないということです。まったく架空の国でのハイ・ファンタジー的な世界観が展開されているにもかかわらず、情報が小出しかつ後出しなので、世界観を基に先を予測したり、その世界観に没入するような臨場感に欠けます。独特な一人称なのでまだマシですが、もし、客観寄りに三人称で書かれていたら歴史の教科書のように思えたかもしれません。
しかし、それらを踏まえても斬新で楽しめる小説であり、いまなお、その新規性において失われていない輝きを秘めた作品です。ぜひ、ご一読を薦めます。
コメント
カトゥサは娘ではなくて息子ではなかったでしょうか。
うろ覚えなのですが・・・
当サイトをご覧頂きありがとうございます。
ご指摘の通りですね。記事を修正いたしました。
これからもどうぞよろしくお願いします。