1. 言の葉の庭
2013年公開のアニメ映画。「君の名は。」で一躍有名となった新海監督の作品で、「君の名は。」の一つ前の作品にあたります。「君の名は。」は本ブログでも一度星2つで評価した後、考えを改めて評価を上げています。
新海監督特有の映像美の素晴らしさはもちろんのこと、「人生に迷う高校生」と「精神的に追い込まれている社会人」の交流というテーマで(ファンタジー色なく)アニメ映画を描こうとしたのも斬新で評価できます。物語面でやや瑕疵を感じましたが、それでも鑑賞後は胸のすくような気分にさせてくれました。
2. あらすじ
高校生の孝雄は靴職人という一風変わった将来の夢を持っており、現実味のない夢に没頭してしまう自分に思い悩んでいた。そんな孝雄は、雨の日の午前だけは学校をサボってよいという自分ルールを作って新宿御苑のベンチに足を運び一人で靴のデザインを考えるのだった。
ある雨の朝、いつものように孝雄が新宿御苑に行くと、そこには先客がいた。その若い女性はチョコレートをつまみにビールを飲み、スーツを着ていながら「会社をサボっちゃった」と言って新宿御苑に来ている。この日から、孝雄が新宿御苑に行くと必ずいるその女性との交流が始まるのだった。
雨の多い梅雨の時期、靴職人を目指していることを打ち明けたり、お弁当を交換しているうちに親交を深め、名前も知らない女性に惹かれていく孝雄。しかし、その女性にはある秘密があって......。
3. 感想
やはり映像は素晴らしいですね、冒頭から惹きこまれてしまいます。事物をくっきりはっきりと見ようとしたときの鮮明さが画面いっぱいに広がっているとでも言いましょうか。人間の目の構造上、焦点付近は解像度が高く、それ以外の部分は曖昧にしか見えていないらしいのですが、その解像度の高い箇所が画面のあらゆる地点にあてはまるような印象です。腕の立つ写真家が接写で撮ったような画像が望遠でも見えているような感じ、とでも表現すればよいのでしょうか。
いまとなっては「君の名は。」と比べてしまうのですが、 ある程度「普通アニメ化」されていて多くのスタッフが関わっている「君の名は。」よりも本作の方が映像美の面でも新海監督のエッセンスが凝縮されているように感じます。
一方、物語面や演出、構成面ではやや稚拙な面があるのは否めません。理想化された都合のよい美人お姉さんとしての雪野先生はちょっとやり過ぎです。心を患った結果の病み具合さえどこか儚さがあって男性都合の魅力とするのは食傷があります。もっと、どうしようもなく惨めで醜く怠惰で「ダメ」な面がないと人間性を獲得できているとはいえないでしょう。健康的で見目麗しく、部屋はよく整理されていて、仕事に行けないということ以外は生活に決定的な支障が出るような精神的症状がない。この程度では「ご都合主義的可哀想病気描写」になってしまいます。加えて、新海作品にありがちな女性の不自然な口調や会話も鼻につきます。
それに対し、孝雄の側はそれほど不自然と感じる点はありませんでしたが、「雨の日だけ新宿御苑に行く」という行動にはやはり引っ掛かりがあります。やや非現実的すぎて無理矢理に感傷的雰囲気を出している感があってなかなか入り込めませんね。サブカル界隈にありがちな無理やり過ぎるファンタジック・ロマンチック描写になっています。
その他の点としては、悪役の生徒たちもやはり非現実的な「ベタさ」を持っている点(描写のされ方が「昭和」ですよね)がイマイチ。また、心象をそのままモノローグで語らせるのも、表現力をこうやって補うしかないという苦しさが滲み出ていて残念です。
ただ、「二人は同じ学校の教師・生徒だった」というギミックには結構どきりとさせられましたし(廊下ですれ違う瞬間のさりげない描写が胸を衝きます)、それにより孝雄の学校への馴染めなさと夢にだけ向かっている視線が強調されるのは巧みな構成だと思いました。さらに冒頭でも述べましたが、「精神的に追い詰められた社会人」をこういったアニメ作品で描こうとするのも日本のアニメーション作品が普遍性を獲得していこうとするのを後押しできていると感じます。ラストシーンで雪野先生の気を張っていた部分が一気に崩れ落ちるのは「社会人カタルシス」を感じさせますね。
4.結論
物語構成や表現手法には悪い点があるものの、素晴らしい映像と「心を病んだ社会人女性と夢に一直線なあまり学校生活に馴染めない高校生の交流」というコンセプトには高い点を上げたいところ。平均以上の星3つが応分でしょう。
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