もちろん、親族が亡くなるという事態は現実世界においては衝撃的な事柄ですし、遺された人々の人生に大きな影響を与えますし、決して軽んじてはならない重要で深刻な過去となります。
しかしそれは、若くして両親や兄弟姉妹を失うという事態が極めて珍しいからで、自由に登場人物を生かしたり死なせたりできるフィクション作品において、現実には珍しいからこそ悲しみが深刻な「死」という事象を軽々しく使って安易な感動を誘おうという意図は軽蔑されるべきでしょう。
その観点から見ると、原作になかった過去が明かされる、という触れ込みで「親族の死」を唐突に入れ込むのは非常に残念で、このあたりの物語における工夫のなさが評価を5点にはできなかった所以です。
ただ、過去回想の中でも原作に準拠している部分は試合の好演出に一役買っていて、バスケ部の先輩たちに蔑ろにされたり、それを乗り越えて仲間と共にバスケットボールに取り組んだりといったバスケ関連描写はもちろんのこと、原作の特徴であるヤンキー漫画的な部分も青春の鬱屈や精神的にもがいている様子をよく表現しており、人生山あり谷ありというヒューマンドラマとしての「SLAM DUNK」を味わうことができます。
高校生同士の殴り合いの喧嘩を、扇情的かつ翳りのある一幕として描くのは1990年代らしさがありますね。
宮城リョータが好意を寄せるマネージャー彩子との、もどかしいような交流をたった一場面だけ描くのも粋でした。
ということで、物語面も語りつくしましたので、最後にこの「SLAM DUNK」という作品や、これに類する「男同士の物語」を象徴するのはきっとこの場面だと私が感じた、ある台詞を紹介したいと思います。
本作の試合展開や台詞回しは概ね原作に準拠しており、目新しいものは特にありません。
かの有名な「諦めたらそこで試合終了ですよ」を含め、所謂「名セリフ」がたっぷりに詰め込まれており、その密度には制作陣による良い意味で露骨なファンサービス精神を感じるほどです。
そんな名セリフたちの中で、あらためて映像化され「おっ」と感じたのは、これから湘南の反転攻勢が始まるという場面で放たれた赤木剛憲の台詞。
「オレたちゃ別に仲良しじゃねえしお前らには腹が立ってばかりだ。だが…このチームは……最高だ……」
そうなんですよ、「オレたちゃ別に仲良しじゃねえ」んですよね。
ことさらに絆が強調される昨今ですが、殊に男同士のチームというものは、スポーツであれ何であれ、所謂「仲良し」ではなくても、そこにパフォーマンス最大化が図られた「最高のチーム」が出現し得るという特徴があるというか、特にフィクション作品においては、チームメイト同士の不仲と、その二人が同じコートに立ち選手として機能するという描写が為されることも多いですよね。
人間関係の好悪と、チームで何かを成し遂げるという事柄のあいだに存在する絶妙な関係性。
そして、最後の最後にその関係性の劇的な変化を持ってきて、勝敗そのものよりも、関係性の変化をクライマックスの感動シーンとして示す(桜木と流川がお互いを認める)という演出。
こういった、典型的な「面白い」少年漫画的演出の極致にある作品が「SLAM DUNK」なのだということを再認識できる素晴らしい映画でした。
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