シリーズ最高傑作と名高い第4巻「涼宮ハルヒの消失」に続く第5巻が本作です。
主人公及びヒロインが所属するSOS団の日常(といっても突飛な事件やイベントに巻き込まれる物語ばかりですが)を描いた中編が3編収録されており、それぞれ、夏、秋、そして冬を舞台とした作品になっております。
「涼宮ハルヒの消失」がクリスマス前からクリスマスにかけての話だったので、夏と秋の話は前作よりも時系列的に前の話であり、こうしたランダムな刊行順もこの「涼宮ハルヒ」シリーズの特徴だといえるでしょう。
さて、そんな本作の感想ですが、中短編集だった第2巻と同様、本作も「涼宮ハルヒ」シリーズに登場するキャラクターが好きな人に向けた中編集となっており、それぞれの作品を単独で見た場合に物語的な美点があるかといえばそうでもない話ばかりだったという印象です。
それゆえ、本作を楽しむためにはキャラクターがはしゃいでいるのを見守るといったような読み方がどうしても必要となるでしょう。
また、アニメ化の際に良くも悪くも話題となった「エンドレスエイト」も収録されておりますので、原作とアニメの両方を鑑賞して違いを楽しむといった読書方法も悪くはないかもしれません。
なお、第1巻及び前作(第4巻)の感想はこちらです。
あらすじ
・エンドレスエイト
文化祭で上映する映画の撮影も終わり、主人公のキョンは怠惰な夏休みを過ごしていた。
しかし、そんな日常を許さないのがSOS団の団長として君臨する涼宮ハルヒであり、団員たちを喫茶店に呼び出すと、夏らしい遊びをこの夏休み期間で網羅的に経験するのだという計画を発表するのだった。
従わざるを得ない団員たちは、とはいえ、それなりにこの多忙な夏休みを楽しむのだが、次第に奇妙な感覚に襲われることが多くなり......。
・射手座の日
文化祭が終わって数日後、学園に静けさが戻り、SOS団員たちも穏やかな午後を部室で過ごしていた。
そんな平穏を破りに馳せ参じたのは、意外にも隣室の住人であるコンピュータ研究会の面々であった。
彼らの用件はつまるところ、自作のコンピュータ・ゲームで勝負し、コンピュータ研が勝利した暁には春先に強奪されたPCを返却して欲しいというもの。
売られた勝負を買わないはずがない涼宮ハルヒのもと、SOS団は一週間後の勝負に向けて練習を開始する。
敵側が作成したゲームで勝負という難局。
SOS団に勝利の可能性はあるのだろうか......。
・雪山症候群
冬休みも合宿を行うことにしたSOS団。
富豪の上級生である鶴屋さんの別荘に招かれて年越しを行うことになったのだが、スキーに出かけた帰路、SOS団員たちは全員で遭難してしまう。
猛吹雪の中で見つけた洋館に侵入し、そこで寒さを凌ぐことにしたのだが、館内では不思議な現象が頻発するうえ、外に繋がる扉は開かなくなってしまっていて......。
感想
連作ではない3編が1冊に収められているという構成のため、エピソードごとに分けて感想を記していきます。
・エンドレスエイト
ハルヒの指示により集められ、プールに夏祭りにアルバイト、天体観測といった夏のイベントを猛烈なスケジュールでSOS団員たちが楽しむことになるという緩い導入の中編ですが、途中から雰囲気は一変します。
タイトルの「エンドレス」が示す通り、このイベント漬けの夏休みが無限ループしており、そのループ回数は1万5千回以上にのぼるということが明かされるのです。
無限ループに気づいたキョンはなんとかこのループから脱出しようとするのですが、手を尽くせど成果はなく、しかし、万策尽き果てたときにはっと思いついたあることがループからの脱出に結びつくという話になっております。
イベントだらけの楽しい夏休みから無限ループの発覚という深刻な事態への転換まではそれなりに楽しめるのですが、そこからがやや淡白で、最終的な解決策が提示される場面でも「納得できないわけではないけれど、それが解決策であることのどこが面白いの?」という印象を受けてしまいました。
夏休みがループしている、という発想自体は面白く感じたので、1万5千回の中から転換点となった数回を詳述して徐々に真相や解決策に迫っていくような長編にしたりであるとか、あるいは、この1万5千回の中で蓄積する肉体的精神的な疲労に追い詰められていく様子をもっと緊迫した調子で描いたり、あるいはその疲労という要素そのものを物語の中核に絡めることもできたでしょう。
無限ループという異常事態を促進する方向にしろ止める方向にしろ、情報統合思念体や未来空間からもっと干渉があっても面白かったかもしれませんし、どこまでも満足しない涼宮ハルヒの暴走を止めるべく古泉が閉鎖空間で奮闘する描写なんかも味があるかもしれません。
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