漫画 「スティーブ・ジョブズ」 ヤマザキマリ 星2つ

スティーブ・ジョブズ
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1. スティーブ・ジョブズ

アップルの創業者であり、Macintosh(Mac)やiPhoneの生みの親として知られる超有名経営者、スティーブ・ジョブズ。2011年に亡くなった彼が自ら要請して書かせたという伝記「スティーブ・ジョブズ」の漫画版が本作になります。漫画として再構成されたヤマザキマリさんは「テルマエ・ロマエ」の作者として有名ですね。

ただ、感想としてはやや拍子抜けといったところ。波乱万丈なジョブズの生涯を追体験できるような伝記を想像していたのですが、多すぎる登場人物と一つ一つのエピソードの短さによってとりとめのない印象の作品に仕上がっています。もちろん、伝記は事実をもとにしているのでフィクション作品のような緻密に計画された盛り上がりが存在し得ないのは理解できるのですが、それでも出来事や人物の掘り下げが薄く、まるで年表を見ているような漫画になっておりました。

2. あらすじ

養子としてジョブズ家に貰われた幼い日のスティーブ・ジョブズ。幼い頃から破天荒な性格は健在で、学校では悪戯好きの問題児だった。しかし、褒め上手でご褒美で釣るのも上手いイモジーン・ヒル先生との出会いを契機に、ジョブズは勉強に興味を持ち始めてその知性を開花させていく。

そして、成績優等者として高校に進学したジョブズがそこで出会う人物こそ、もう一人の"スティーブ"ことスティーブ・ウォズニアックである。ジョブズよりも遥かにエレクトロニクスに精通し、内気で穏やかな性格ながら悪戯好きのウォズニアックと意気投合したジョブズは彼とともに過激な悪戯を編み出し実行していく。

そんなジョブズは大学生になったものの、もちろん、普通の授業に興味など示すはずもなく、禅やLSDにのめりこみ、ついには大学を辞めてしまう。帰郷したジョブズはアタリというゲーム会社で働くが、やはり過激な言動で周囲からは嫌われてしまう。しかし、そんな彼の発言の中にある種の真理を見出す者もおり、アタリの社長もその中の一人だった。そして、突如「導師に会いにインドへ行きたい」と言いだしたジョブズに対し、アタリの社長は資金援助を約束する。

インドへ行き、長い旅路の中で内的な変化を遂げたジョブズ。アメリカに帰ってきた彼は以前とはすっかり異なる人物になっていた。そして、アタリの社員ではないウォズニアックと密かに連絡をとりながら斬新なゲームの開発へと漕ぎつけるなど、社内で成功していく。

1975年3月5日、二人のスティーブは展示会で「コンピューター・キット」と出会う。それに衝撃を受けたウォズニアックが情熱に駆られて急遽開発した作品こそ、後の「アップルⅠ」の原型となるコンピュータだった。これに目を付けたジョブズは資金を調達して会社を立ち上げ、このコンピュータの量産・販売を目論む。立ち上げられた会社の名前は「アップル」。ここからジョブズの伝説が始まった.......。

3. 感想

あのスティーブ・ジョブズの伝記(の漫画)と聞き、期待を膨らませて読んだのですがやや拍子抜けでした。

もちろん、ジョブズの奇行の数々や斬新な発想、そして世界を変えてしまうようなプロダクトが次々と生み出されていく様子はしっかりと書かれているのですが、適当にインターネットサーフィンをして得られる情報や、ジョブズに関するニュースやドキュメンタリーなどで語りつくされた事柄以上のエピソードがあるわけではなく、むしろジョブズの人生の大枠を捉えること重点が置かれたつくりになっていて淡々と短い話が連なっているだけ。あまり知られていない意外なエピソードに驚いたり、物語的な起伏を楽しめるということがなかったのは残念でした。

とはいえ、やはりあのスティーブ・ジョブズの人生だけあって、あらためて感心させられることは多くあります。

ジョブズは極めて協調性に乏しく、他人から見ると実に反抗的な人間なのですが、それは他人がAと言っているから「Aではない」と反抗するのではなく、元々の異質な美的感覚が内側に備わっていて、それをそのまま出すから反抗的に見えるということ。古いからとか新しいからとかといった相対的な価値基準ではなく、絶対的な価値を提示するからこそ、それを押し通した先に良い結果が待っていたという点は着目すべきだと思います。単に新しいからと飛びつくのでもなく、昭和の価値観だからと遠ざけるのでもなく、ある価値観が持つ相対化されない本質に着目して生きていきたいと思わされます。

また、そのジョブズが提示した価値観というものが「単純に・直感的に」だったという点も時代において傑出した存在になれた理由なのでしょう。気難しい性格で強引な手法を好む一方、そういったやり方で彼が実現しようとしたのはシンプルさだったのです。御託を並べ、ルールをたくさんつくれば物事が改善されると信じている人物や組織が多い中で、「単純さ」を見下さずむしろ崇高な存在として扱う姿勢のビジネスマンは稀有な存在だったのだと思います。インドに渡ったエピソードでも、インドの田舎で育った人々の「直感力」を高く評価し、欧米式の「理論・理性」で物事を考える姿勢の弱点に気づいたというジョブズの発言がありますが、その中で「合理性」にないものが「直感」の中にあり、それを高く評価すべきとしていたのは印象に残りました。アップル社は電気機器メーカーで唯一と言っていいライフスタイルブランド(単に生活を助ける手段・道具になるのではなく、その商品を持つこと自体に幸福を感じ、その商品の所有が目的となるような製品群)になっていくわけですが、結局のところ「幸福」という主観を満たすために私たちは製品やサービスを消費しているのだという点も忘れないようにしたいですね。ソニーや任天堂の頑張りはありますが、日本は総じてこの分野において劣勢に立たされています。世界の人々の「主観的幸福」を満たせるような製品やサービスを生み出せなければ高いマージンの商売を続けてはいけないのでしょう。どんなに性能的に優れていてもそれが手段としかなり得ない製品・部品であるのなら、結局のところ値引きの泥沼にはまっていくだけです。

4. 結論

意外なほどに淡々としたジョブズの伝記でした。特に後半は事実の羅列的な側面が強くなっていき、まぁ、フィクションでないから仕方がないかという思いがある一方、起伏のない表現方法で伝記を書く意味とは、と思ってしまう側面もあり、ジョブズの人生の概要を知りたいというのであればまぁいいのでしょうが(英語版wikipediaを見ればいいとは思いますが)、それ以上の何かを求められる作品ではありません。

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