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「福祉資本主義の三つの世界」エスピン=アンデルセン 評価:4点|「労働力の脱商品化」と「社会的階層化」に着目した福祉国家論の画期的古典【政治学】

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福祉資本主義の3つの世界
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アメリカやイギリスなどのアングロサクソン諸国、ドイツやフランスなどの大陸欧州、スウェーデンやフィンランドなどの北欧諸国。

同じ先進国と呼ばれていても、これらの国々はそれぞれ大きく異なる政策パッケージを実施しております。

しかし、それらの国々の特徴を厳密に区分する指標はいったい何なのでしょうか。

もちろん、イメージ論で語ることはできましょうし、個別具体的な政策についてはそれぞれの専門及び関心ある分野で様々な議論があるのだとは思います。

ただ、数理的にこれといった境界線を示せと言われるとなかなか困ってしまうのではないでしょうか。

そんな「先進国(=福祉国家)の分類」について論じた政治学の古典が本著です。

本書を読破することが、先進国同士の福祉国家としての「質」の違いを学術的に勉強するための第一歩になることでしょう。

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目次

本書の目次は以下の通り

・第Ⅰ部 三つの福祉国家レジーム
第1章 福祉国家を巡る三つの政治経済学
第2章 脱商品化と社会政策
第3章 階層化のシステムとしての福祉国家
第4章 年金レジームの形成における国家と市場
第5章 権力構造における分配体制

・第Ⅱ部 雇用構造における福祉国家
第6章 福祉国家と労働市場のレジーム
第7章 完全雇用のための制度調整
第8章 ポスト工業化と雇用の三つの軌跡

・第Ⅲ部 結論
第9章 ポスト工業化構造の下における福祉国家レジーム

感想

冒頭にも軽く触れた通り、本書は先進国を3つの政治体制、すなはち、自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームに区分し、なるべく例外なく、分類が一意に決まるような指標を見出していくということを目的に書かれています。

その中で、当時混沌としていた福祉国家・民主国家・資本主義国家についての議論を見事に整理し、主流の文脈を形成していったからこそ、本書は今日でも数多く参照される書籍となっております。

そういうわけで、第1章は福祉国家形成や福祉国家とは何かという論題を巡る、当時の代表的な議論が紹介され、著者がそれらに対して次々と疑義を呈していく章となっております。

福祉国家は産業化や民主化の必然的帰結であるとか、ある国家が福祉国家か否かを判断する材料として社会保障・社会福祉への支出の大きさ(割合)を見れば良いだとか、そういった議論が盛んな中で、「あなたがたの言う『福祉国家』とは厳密にどういうことなのか?」という問いを著者は投げかけます。

つまり、ひとくちに福祉国家といっても、ミーンズテスト付きの救貧政策が社会福祉の主となっている国家もあれば、働いていなくても働いているのと同じくらいの扶助が受けられる国家もある。

保険を国家がほぼ独占している場合もあれば、供給は民間に委ねられており、そこに減税措置などの優遇を行っている場合もある。

年金制度も、一律支給にかなり近い国家もあれば、引退前の職業や地位、年収によって大きく給付額が変わる国家もある。

「諸福祉国家が決して同じ一本道を辿っているわけではない」という訴えかけは、当時において斬新であり、社会保障や社会福祉の「供給方法」がそれを分けているという問題提起もまた新鮮だったのです。

第2章では、福祉国家の道を「一本道ではない」ことにした要因、分岐点が語られます。

ここでの重要なキーワードは「労働力の商品化・脱商品化」です。

産業革命以前の前資本制社会において、労働力は商品化されていなかったことを著者はまず強調します。

農家の家計は自足的で、労役の見返りは領主の家父長的庇護であり(賃金ではない)、都市の生産者はギルドや友愛組合に加入してそこで生活を保障され(歩合的賃金・報酬よりも互助会での相互扶助が生計を主に保障していた)、あまりに貧困ならば教会が更なる扶助を提供しておりました。

労働は賃金を得るためというよりもむしろ、共同体や(狭い)社会の一員として認められるためにあり、その共同体や社会から何らかの恩恵を得る意義の方が大きかったのです。

しかし、資本主義が台頭して労働力が「商品化」するにつれ、支配階層(権力者・資本家)の考えは二つに分かれます。

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