小説 「陽だまりの彼女」 越谷オサム 星1つ

陽だまりの彼女
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1. 陽だまりの彼女

「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」そんなキャッチコピーのもと、一時期は書店でかなりプッシュされていた作品。

企画倒れに終わることなく、ミリオンセラーにまで至り、映画も大人気とのことですが、物語の構造的にちょっとこれを楽しむのは無理があるだろうという点が多くありました。

2. あらすじ

主人公、奥田浩介は交通広告代理店の若手営業マン。ある日、営業先のランジェリーメーカーを訪れたとき、ある女性と再会する。 その女性の名前は渡会真緒。浩介と彼女はかつて中学校の同級生であった。非常に頼りなかったかつての彼女とは打って変わって、いまやデキるキャリアウーマン街道まっしぐらの真緒に、浩介は驚きを隠せない。

そんな真緒も、浩介との再開を喜んでいた。かつて中学校でいじめられていたところを浩介に救われた彼女は、浩介と過ごした日々を大切に想っていたのである。

社会人として出会った二人だったが、その仲が縮まるのに時間はかからなかった。無事、幸せな結婚生活が始まったのだが、しばらくすると、彼女に体調不良が頻発するようになり、身体も痩せ細っていってしまう。

病院に行っても「異常なし」と診断されるが、浩介は真緒の変化を訝っていた。そしてついに、事件の日がやって来る。二人の生活はどこに行ってしまうのか、真緒の秘密とはなにか、そして最後は衝撃のエンディングが待っている.....。

3. 感想

話題になっていたので購入してみたのですが、私の肌には全く合いませんでした。まず、物語の大枠そのものが非常にご都合主義的です。中学校で美少女(頭弱い)がいじめられていて、それを颯爽と助けた男子がクラスでは除け者にされながらもその美少女とは親密な学生生活を送る。

やがて二人は別れるが、ある日、デキる美女となって彼女は男の目の前に現れる。ここまででもかなりご都合ですが、ギリギリ物語の端緒としてはあり得るでしょう。問題は、ここからの恋愛の展開です。

外食に行く、映画を観に行く、ドライブに行く、美術館に行く、公園を散歩する。そういったデートシーンではただ二人がいちゃいちゃとする(かなり非現実的で男性の妄想が相当程度にじみ出た)会話を見せつけられるばかりで、小説として何の面白みもありません。

(男性にとって)都合良く場をリードしたりされたりする能力があり、しかもそれを率先とやってくれる彼女。しかも、エロいことにも寛容。ほとんど空想の中の生物です。ただ、こうしたご都合展開を支える理由は一応あります。それは、「真緒の正体は猫である」というものです。

弱り切っていたところを浩介がかつて助けた猫が真緒であり、彼女はその恩を返すため(それがきっかけで浩介が好きになったため)人間に生まれ変わって浩介のもとに現れたという展開がオチとして用意されています。

物語中も、真緒が猫(の生まれ変わり)であることが何度も示唆されます。

例えば、真緒が養子であり、「全生活史健忘」で十二歳までの記憶がないこと。中学生のときは分数の計算もできないほど頭が悪かったということ。その中学校のときに立っていた「深夜に全裸で歩いていた」という噂は本当だったこと。

他にも様々に「猫っぽい」要素が散りばめられ、推理しながら物語を読むタイプの人にはオチが途中で分かるようになっています。ここで問題なのは、①真緒を人間だと思って読み進めた場合、②真緒の正体を猫だと見破りつつ読み進めた場合、の両パターンで物語の面白味がなくなるということです。

①はまさに上述のパターンです。ご都合展開とご都合彼女に辟易してしまいます。

確かに、猫は可愛く、甘えてくるところとツンと突き放してくるところのバランスは人間の心を鷲掴みにします。それを(部分的にでも)理想の女性像にあてはめてしまうというのはありがちなことで、猫耳が適度に従属し適度に反抗してくれる理想の女性のシンボルとして一部に人気があるのも頷けます。

しかし、それを人間にあてはめたうえでなおかつ正体は猫ではないとした場合、あまりに不自然な妄想の固まりだけが残ります。真緒には真緒自身のキャリアやコンプレックス、人生についての悩みなど何もなく、ただただ浩介の薄っぺらい「恋愛奴隷」であるだけです。

猫として生きている(12年ほどしか生きられない)真緒の立場を理解できないままに読み進めると、本当に気持ち悪いだけです。

②では①のような感想を抱くことはないでしょうが、最も興奮が訪れるべき終盤の展開になんら驚くことがありません。真緒が衰弱していっても、ベランダから飛び降りて赤ちゃんを救っても、最後に「実は猫でした」と明かされても、「そうですね」としか思えない。

「前代未聞のハッピーエンド」もこれでは台無しです。

以上のように、私としては全く楽しめず、「女子が男子に読んで欲しい恋愛漫画No.1」というキャッチコピーには疑問しかありあせんでした。とはいえ、それが受け入れられ、売れているのが事実。若い人々の感性を理解するため(そして自分との乖離を理解するため)にも読んでおくべき本の一つだったのかもしれません。

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