小説 「砂漠」 伊坂幸太郎 星3つ 

砂漠
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1. 砂漠

仙台にある大学を舞台にした青春群像劇です。

2004年から2016年まで13回の本屋大賞のうち、大賞1回、ノミネート6回、ノミネート作品10作品を誇る伊坂氏の作品の中では賞に縁のない本作ですが、洒脱でテンポも良く、期待通りの面白さでした。

2. あらすじ

大学入学直後に知り合った5人。北村、西嶋、鳥井の男三人と、東堂、南の女二人。

奇妙な正義感に溢れた西嶋と、軽いノリのトラブルメーカーである鳥井が引っ張ってくる騒動はどれも変わったものばかり。悪徳ホストとの賭けボウリングや、通り魔犯の謎、超能力者と超能力否定派の対決ショー。物語の語り手である北村はそれらの事件に否応なしに巻き込まれていく。

くだらないことに熱心な西嶋や鳥井の足掻きに、不愛想だが絶世の美人である東堂と、超能力が使える南の存在が加わり、事件はときに深刻な、ときに軽妙な方向へと二転三転する。

がむしゃらに生きた大学生活を通じて築き上げられた友情と、各人の成長を描く、愛おしくも懐かしい青春群像劇。

3. 感想

「文章によるエンターテイメント」としての面白さがある作品だと思いました。

本書は関連するが別々の事件が起こる「春」「夏」「秋」「冬」の四章に分けられており、いわば連作中編のような形式がとられています。

「春」では合コンで知り合った女性たちに嵌められ、北村たちはとんでもない金額を賭けたボウリング対決をすることになってしまいます。

「夏」ではお金持ちの家を狙う空き巣犯を捕まえようとすることで、鳥井が大切なものを失ってしまいます。

「秋」では超能力者と超能力否定派の学者による対決が行われ、南の存在から超能力はあると確信する主人公たちが学者に挑むのですが、この対決ショーに潜む裏の顔に主人公たちは気づいてしまいます。

「冬」では再び空き巣犯との対決がクローズアップされ、様々な伏線が回収されて驚きをもたらします。

一貫したストーリーがあるというよりは、推理もののドラマのように同じ登場人物による一話完結を四回見るような形の作品です。ゆえに、このような紹介になってしまいましたが、「物語の背景にある世界観・物語のテンポ」に引き込む力が非常に強い作品です。

最も印象的な登場人物は間違いなく西嶋で、飲み会でいきなりアメリカの中東侵攻を批難し、「自分たちだけ良ければよいなんてよくない、俺たちは砂漠に雪を降らせることだってできる」と高らかに宣言してひんしゅくを買います。言っていることは屁理屈だらけなのですが、「目の前にいる困っている人を救う」という信念だけは強く、時に面白く、時に読者の心をうつ行動で楽しませてくれます。

そして、西嶋のように口には出さず、軽いノリで生きているように見えて正義感と行動力を備えているのが鳥井です。元々、麻雀をするのに「東西南北」が集まれば面白いという西嶋の発想によって生まれたグループが主人公たち五人なのですが、「東西南北」の四人は常にテンションが一定です。西嶋は馬鹿みたいにハイテンションで、北島は落ち着いている、東堂は落ち着きを越えて冷徹な面があり、南は朗らかと形容できる。しかし、唯一、「東西南北」ではない鳥井だけは、四人の中間的な性格で、鳥井の心理や状態の変化こそが物語に波をつくっています。強さと弱さ、明るさと冷たさ、人間が持つ多様な側面と、その間で揺れる心理が態度にすぐ出る鳥井に対する他四人の四色の接し方に、「色んな人が仲良くしてるグループっていいな」と感じさせます。

「砂漠に雪を降らせることだって、余裕でできる」

西嶋の言葉とは対照的に、主人公たちが起こす奇跡は非常に小さなもので、社会的影響力など微塵もありません。しかし、主人公たちが起こす奇跡は、「頑張ったらできそうな奇跡」であり、主人公たち五人のグループは、「いそうでいない。いなさそうで、もしかしたらいるんじゃないか」という、現実と想像のボーダーラインぎりぎりの構成になっています。

私が冒頭に「愛おしくも懐かしい」と表現したのはこのためです。

これほど愉快で個性的な仲間たちと、これほど起伏に富んだ大学生活を送れるなんてことはまずないだろう。あくまで想像の産物だ、と半分思わせる一方で、残りの半分は、もしかしたら、こんな面子と騒げたんじゃないか、という気持ちにさせるような、繊細なノスタルジーをくすぐる作品です。

さて、一通り良い点を書いたところで、それではなぜ星5つではなく3つなのか、という点についての少しばかりの不満を述べていきます。

一点目は、西嶋のキャラクターです。

現実と非現実の境で読者を楽しませてくれるのが作品の魅力だと述べましたが、西嶋や、西嶋に対する周囲に扱いはやや非現実的すぎるきらいがあります。常に「ですます」調で話し、二言目にはアメリカ批判かパンクロック賛美しかしないなど、相手にされないどころの騒ぎではありません。「過剰に正義感がある」人物は確かに物語進行にとっては便利ですが、ちょっとやりすぎかなと思う場面も多々ありました。そして、周囲がそれに寛容すぎます。西嶋自身も高校までは相応の酷い扱いを受けていたと語りますが、西嶋自身が変わるのではなく、大学で都合の良い友達ができて西嶋が楽になってしまうのはややご都合主義すぎるかなと思いました。

二点目に、東堂と南の扱いがあります。

「態度の冷たい変わり者の美人」で一貫する東堂。「陽だまりがさしたような」などと昔の少年漫画のヒロインレベルの形容詞でしか表現されない南。この二人への掘り下げが足りず、男たちとくっつけるためだけに出した女性たちと言われても仕方がないかなと思いました。あまり人間臭さがなく、テンプレート通りのキャラクターがテンプレート通りに動いてしまっています。

とはいえ、それ以上に美点が多く、少なくとも飽きるなんてことはないでしょう。
「面白かったな」とは絶対に思える作品なので、オススメです。

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