1. カラフル
人気の高い児童文学で、「産経児童文学出版文化賞」も受賞している本作。
著者の森絵都さんも著名な児童文学作家で、漫画化され、アニメ化予定もある「DIVE!!」や、直木賞を獲った「風に舞い上がるビニールシート」が有名です。
そうなると期待も高かったのですが、結果としては裏切られてしまいました。
2. あらすじ
理由はわからないが、「僕」は死んでしまった。そんな僕の魂がふらふらとさまよっていると、目の前にいきなり天使が現れ、こう告げる。
「あなたは大きなあやまちを犯して死んだ魂です。通常ならば輪廻転生から外されますが、抽選に当たったので現世に帰って再挑戦ができるようになりました」
そうして、「僕」は「小林真」という少年の身体にホームステイして暮らすことになった。しかし、この「小林真」の人生が一筋縄ではいかない。
父親は会社の上司が逮捕されて代わりに昇進することを喜ぶような利己主義者。母親は通っていたフラメンコ教室の教師と最近まで不倫しており、兄はいつも真に対して冷たい態度をとる。
そのうえ、学校では浮いており、美術部に所属する「超地味」な生徒という有様。
「僕」はこの状況に絶望しつつも、現世での修行という名目のために渋々状況を打開しようとする。しかし、片思いしていた女子が援助交際をしており、それを発見した際にかっこつけるために買ったスニーカーを不良に取られるなど散々な始末。
ふてくされる「僕」だったが、ちょっとしたこときっかけに、そんな人たちの普段とは違った側面と彼ら彼女らが抱く「真」への想いが見え始めて......。
3. 感想
児童文学を隠れ蓑にした雑な設定と、児童には共感を得られない「大人」的世界観の押し付けだけが目立ちます。また、「中学生が抱く思春期の悩み」というテーマはありきたりで、家族関係や友人関係がその枢要であるというのもベタの骨頂です。
それでは、この普遍的なテーマを著者がどのように料理しているのか。
そこに現れるには、あまりにも「単なる悪役すぎる」大人や同級生たちです。出世争いのために悪魔的心理を隠さない父親。寂しさ紛らわせすため不倫に走る母親。援助交際をしている中学生。主人公を疎遠にして見下す同級生たち。
ニュースばかり見ている「大人」がさも「子供のおかれた環境をよく分かっています」と自惚れてつくりだしたようなキャラクターばかりで辟易します。確かに、こういう人々はいるでしょう。しかし、テンプレ的な人物を並べ立ててテンプレ的行動を執らせることに終始していては面白い物語は出来上がりません。山あり谷ありの展開や訴えかけるべきテーマがそこには立ち現れてこないのです。
「大人にも人気がある児童文学」という位置づけらしいですが、「よくわかっている」ぶりたい陶酔した人々以外を惹きつけられるとは思えません。
特に、「一見、悪そうな人たちが本当はみんないい人たちだった」の見せ方が不自然過ぎます。確かに、人間は誰しも良い心と悪い心を併せ持っておりますし、その事実は現実世界で忘れ去られやすいぶん、よく物語のテーマになったり、意外性を持たせるためのギミックとして使われたりします。
しかし、本作ではあまりにもその使い方が下手なのです。悪く見える人の「いい人さ」が垣間見えるシーンがあるにしても、その垣間見え方は人それぞれなはずです。ある人の中にある善と悪の比率も、善や悪が発露される方法も本来はバラバラのはずです。ですが、この物語ではまるで機械のように、「いい人告白」のスイッチが入ったかのように次々と、脈絡もなくこれまで悪役だった登場人物たちの印象を「いい人」に変えようとしてきます。
そして、「僕が犯したあやまち」が最後に披露されるのですが、それもまたベタベタです。そう思わせておいて実は、の「そう思わせといて」がそのままオチなのです。現実を描いているようで、実は奇妙な「理想的展開」を押し付けようとしている。しかも、ミステリー的驚きもない。それが本作に対する総評です。
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