小説 「すいかの匂い」 江國香織 星3つ

すいかの匂い
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1. すいかの匂い

直木賞をはじめ華々しい受賞歴を誇る人気作家、江國香織さんの短編集です。

少し陰惨で生々しい少女時代の記憶・感覚。それが本書に通底するテーマであり、江國さんの瑞々しい筆致からはまるでその日々の手触りや匂いまでもが伝わってくるようです。

2. あらすじ

母の出産のため叔母さんの家に預けられていた「わたし」だったが、ある日、ふとその家から脱走してしまう。

そして、ひたすら歩き続けた先にあった一軒の民家。そこに住んでいた家族とは......。

表題作「すいかの匂い」を含め11篇を収録。

3. 感想

子供の頃って、無慈悲で残酷で、無意味に好き嫌いが激しかったりしましたよね。小さな動物を殺すことさえ軽くやってしまったり、嘘や盗みの癖があるのはむしろ子供だったりします。

でも、倫理観とか、「人間はこうするべき、事物はこうあるべき」を社会から押し付けられる前の方が、ありのまま、生々しく、自然や人の声を感じていたりしていたのだと思います。

夏の草木の薫り、罪の歓び。そして、まともではない奇妙な大人たちにこそ魅力を感じていた。その感覚を再び掘り起こし、甘くて淡くて苦いフォルムで見せつけてくださるのが本作です。

これといったストーリーがあるわけではないのですが、読者が人生というストーリーの中で感じたことのある、印象的だが忘れてしまいがちな物事を丹念に描き出した作品だといえるでしょう。

王道の小説にはない、けれども突飛ではない魅力。それを感じたい人にはオススメです。

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