【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ

車輪の下

1. 車輪の下

ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。

短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。

そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。

「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。

聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。

だからこそよく売れているのだと思います。

そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。

思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。

ヘルマン ヘッセ (著), Hermann Hesse (原著), 高橋 健二 (翻訳)

2. あらすじ

田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。

その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。

しかし、神学校で待っていたのはいままで以上に鬱屈な勉強漬けの日々。

そんなハンスが神学校で出会ったのは、ヘルマン・ハイルナーという少年。

おとなしい優等生ばかりの神学校で、ハイルナーは異端の生徒だった。

詩歌の才能に長け、勉強はそっちのけで奔放な生活を送り、学校規則も碌に守らない。

ハイルナーはハンスと真逆のような存在だったが、だからこそ、ハンスはハイルナーに惹かれていく。

同性愛と友情の中間とも呼べるような関係性をハイルナーと築いていくハンスだったが、神学校の校長をはじめ、周囲の大人たちはその関係を快く思っていない。

ただ、大人たちから咎められようとも、ハンスはハイルナーのそばを離れられないのだった。

そんな折、ハイルナーが暴行事件を起こしたとして退学になってしまう。

心の支えを失い、絶望に押し潰され、ハンスは生きる希望を喪っていく。

いつかその心は蘇るのか、それとも......。

3. 感想

純文学らしい濃やかな筆致が本作の特徴で、最初から最後まで繊細な表現が連続します。

勉強ができて周囲から期待される優等生としての自分と、釣り好きの野生児としての自分とのあいだで揺れ動くハンスの心理。

神学校での勉強を先取り学習しておくよう勧める大人と、入学までの期間で十分な息抜きをするように勧める大人。

締め付けの激しい神学校と、自然豊かな故郷の対比。

個性豊かではあるものの、「凡庸な生徒」の域を脱しない級友たちの滑稽な行動。

そんな中、一人だけ妙に大人びていて、超然としていてなおかつ感受性豊かな不良のハイルナー。

より巨大なもの、より背徳的なものに惹かれていく思春期特有の感情に駆られ、ハンスとハイルナーの友情が培われていく過程の瑞々しさ。

ハンスはおとなしく内向的だけれど心の中に翳った情熱を秘めていて、ハイルナーは社交的かつ情熱的で、だからこその危うさを発している。

二人の少年が紡ぐ禁断の愛がひりひりと迸る緊張感で描かれています。

「生きる意味」を知っているハイルナーに感化されて、人生で初めて「生きる意味」について思いを馳せるのだけれど、そうすると自分自身の「生きる意味」がまるでないことに気づいてしまう。

そんなハンスの葛藤は、あまりに優等生然として青春を過ごしてしまった人々に響くのではないでしょうか。

そして、二人のキスで絶頂に達した興奮はやがてハイルナーの放校により急降下を強いられ、ハンスは絶望の中で勉学が手につかなくなり、精神的に疲弊して休校することになります。

故郷の町に帰り、腫れもの扱いされるハンスは、見習い工として自分自身の人生を立て直そうとします。

自然に囲まれた田舎町で身体を動かすことにより、少しずつ生きる喜びを取り戻していくハンスの姿を見ていると、読んでいる側の心にまで暖かくなってきます。

エンマという娘への恋心も抱くようになり、さぁ、ここかが人生の第二章だという場面でハンスに訪れる悲劇。

まさにジェットコースターのような展開には驚嘆させられる一方、自然や手仕事、恋愛でさえも癒しきれなかったハンスの傷心にいよいよ思いを馳せてしまいます。

優等生と呼ばれてはいたけれど、人生は上手くいっていない。

中学校や高校に通っている頃からそうだった、あるいは、そんな予感があった。

もしくは、いま中学校や高校に通っていて、勉強はできるけれども生きる意味を見いだせていない。

そんな人たちに「刺さる」こと間違いなしの、優等生文学の古典だと言える作品です。

本記事にピンと来たら買いなのではないでしょうか。

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ヘルマン ヘッセ (著), Hermann Hesse (原著), 高橋 健二 (翻訳)

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