一年ほど前のことになりますが、電通が発表した「日本の広告費」という資料によりますと、2019年にはついに「インターネット広告費」が「テレビメディア広告費」を超えたそうです。
「インターネット広告費」が凄まじい勢いで伸びているのに対し「テレビメディア広告費」は伸び率さえマイナスですから、この差はもっと拡大していくでしょう。
目下、劣勢に立たされている「テレビ」という媒体。
その影響力の低下はSNS等でも盛んに言及されており、特にYouTubeとの対比で語られることが多いように思われます。
そこで今回は、なぜYouTubeのような媒体がテレビを突き放しつつあるのかということを「広告」という側面から検討していきたいと思います。
そもそもテレビの強みとは何だったのか
テレビ番組はとても面白くて、学校や職場で話題になることが当たり前のコンテンツである。
インターネットが広く普及する以前の状況を知っている方々ならば、かつて存在したこの感覚をよく理解して頂けると思います。
それでは、なぜテレビは面白かったのでしょうか(あるいは、なぜ、いまでもある程度面白いのでしょうか)。
番組のテーマや企画自体が面白い、という側面もあるかもしれませんが、やはり「芸能人」という存在そのものの面白さがテーマや企画を支えているという側面は無視できないでしょう。
お笑い芸人、アーティスト、俳優、アイドルといった「スター」たちが面白かったり感動できるコンテンツを供給してくれていて、テレビ番組を見るという行為はすなわち彼らの芸を見ることと同一だという感覚が多数派の感覚であると思います。
日常的にテレビ番組で活躍しているスターたち、あるいは、スターを目指す芸能人の卵たち。
彼らがテレビに出る理由、彼らがテレビ出演を目指していた理由は何でしょうか。
理由の一つは、もちろん高額の報酬でしょう。
スーパースターたちの中には若くして何十億円もの財産を築いている者も少なくありません。
第二の理由として、承認欲求も挙げられると思います。
自分の芸をもっと多くの人に見てもらって、称賛を浴びたい。
そんな願望を持ちながら、大舞台を夢見て自己研鑽に励む若者はいまも昔も少なくありません。
そのように、高額の報酬や強い大衆的関心を集めるために、若者たちはテレビを目指していました。
逆に言えば、かつて、高額の報酬や強い大衆的関心を得る王道の手段はテレビしかなかったといっても過言ではありませんでした。
なぜ、テレビだけだったのでしょうか。
それはもちろん、テレビだけが、全国放送の権利を独占していたからです。
全国のお茶の間を観客席にできたのはテレビだけでしたし、全国のお茶の間を観客席にできたのがテレビだけだったからこそ、大手企業はこぞって高額のテレビCMを打ちました。
強度の承認欲求を満たせる場所を用意できたのはテレビ局だけであり、高額の広告料を大手企業から巻き上げることができたのもテレビ局だけであり、その広告料を少数のスター芸能人に配分するという構造をつくりだすことで、テレビ局はスター候補たちに対して高額報酬をちらつかせて焚きつけることができたのです。
そんな業界構造に対して殴り込みをかけたのがYouTubeです。
YouTubeはインターネットを使うことで全国放送というテレビのお株を奪い、しかも、広告収入をクリエイターに配分する構造をつくりだすことで人気者が大金を手にできる環境を整えました。
結果として多くのクリエイターがYouTubeに参入し、芸能人までYouTuberに転身するなど、テレビ業界から確実に「タレント」を奪いつつあります。
こうしてYouTubeによる覇権が確立しつつある昨今ですが、なぜ、YouTubeだけがテレビに取って代わるほどの力を持ち得たのでしょうか。
インターネットの登場以降「全国放送」的なことが可能なプラットフォームは数多く生まれましたが、テレビに対抗できるだけの力を持ち始めることができたのはYouTubeが最初です。
私が考えるその理由は、YouTubeだけが「全国放送」を梃子に高額の広告料を獲得し、それをクリエイターに配分するという、テレビの構造を模倣できたからというものです。
ニコニコ動画の失敗から見る報酬の重要性
そういった構造をつくり得なかったために失敗した事例として、ニコニコ動画を挙げましょう。
2006年にサービスを開始したニコニコ動画は、動画内にコメントが流れるという画期的なシステムによって利用者を惹きつけ、当時の若者たちのあいだで一斉を風靡しました。
面白さを重視したネタ動画の数々がアップロードされたのはもちろん、VOCALOID「初音ミク」を使った歌動画も今日まで続く流行の礎を築きました。
いまやスーパースターとなった米津玄師が「ハチP」として活動していたこともよく知られています。
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