「帰ってきたヒトラー」ダーヴィト・ヴネント 評価:2点|現代ドイツ人の心を鷲掴みにする独裁者【政治風刺映画】

帰ってきたヒトラー

2015年に公開されたドイツ映画。

世界的ベストセラーとなった同名小説が原作で、タイトルの通り、アドルフ・ヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップするというお話です。

2014年のドイツといえば、移民排斥運動が勃興し、国家民主党やドイツのための選択肢といった極右政党の勢力が伸長していた時期でもあり、そういった機運への警鐘として製作された映画でもあります。

とはいえ、ヒトラーへの画一的な批判一辺倒ではないのが面白いところ。

ヒトラーが巧みな弁舌で聴衆からの支持を調達する様子、そして、警戒感の薄さからヒトラーを易々と受け入れてしまう大衆の様子がリアルに描かれ、そのポジティブな言葉遣いから良心的な存在だとさえ見なされるようになる過程が印象深く描かれています。

ただ、そうした手法でドイツの政治的現状を描くことには成功している一方、物語としての面白さにはやや欠ける面があると思いました。

準ドキュメンタリー的な学習映画としては優秀だと感じられたのですが、演出や伏線の張り方、どんでん返しの技術等に特筆すべき点がなく、観客の興奮を搔き立てるには至らなかった映画なのだと思います。

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あらすじ

1945年、第二次世界大戦におけるドイツ敗戦を目前に拳銃自殺を遂げたアドルフ・ヒトラー。

しかし、目を覚ますとそこは2014年のドイツ・ベルリンだった。

キオスクの主人に助けられたヒトラーは困惑しつつもタイムスリップを受け入れ、現代ドイツ社会について学んでいく。

そんな中、ひょんなことから物真似芸人としてテレビ出演を果たすことになったヒトラーだったが、肩書は物真似芸人でも、中身はあのアドルフ・ヒトラーそのもの。

名演説で聴衆を虜にすると、テレビとYouTubeでスターダムを駆け上がり、一躍話題の人となる。

あまりに見事な大衆扇動、あまりに見事なヒトラーぶり、そして、あまりに少ない過去についての情報。

この人は本当にアドルフ・ヒトラーなのではないか。

ヒトラーをテレビ局に紹介したプロデューサー、フランク・ザヴァツキはそんな疑念を抱くようになり......。

感想

アドルフ・ヒトラーが現代に蘇る、という設定はセンセーショナルですが、設定の力だけで物語を引っ張っているのがやや残念。

ヒトラーが公園で目覚め、新聞を通じて自身の境遇と現代ドイツを知り、やがてテレビ局のスタッフと出会ってテレビ出演を果たす。

そんな序盤から中盤にかけての展開はのっぺり感を禁じえません。

ヒトラーがドイツの人々と語り合う場面もあるのですが、ドイツ市民の口から出てくるのは通り一辺の政治批判であり、それが映画を面白くしているわけでもないのです。

また、そうした場面におけるヒトラーの市民に対する接し方にもインパクトはなく、ヒトラーが犬を射殺するという非現実的な出来事まで起こって興ざめしてしまいます。

一方、ヒトラーがテレビ出演を果たして以降の展開には見どころがあります。

貧困や失業、低出生率といった社会問題を指摘する演説もまずまず面白いのですが、私が特に面白いと思ったのは、ヒトラーがテレビ番組そのものについて語る場面。

ホテルに設置されているテレビは超薄型で、技術の圧倒的進歩には感激してしまう。

しかし、流されている番組は料理番組や低俗なドラマといったしょうもない内容ばかり。

確かに、苦しい時代には娯楽が必要だ。1944年もそうだった。

いまはそれほどまでに苦しいのかい?

この言説はかなり見事だと感じましたね、

現代日本も様々な娯楽に溢れていますが、近ごろ流行するのはとみに「苦しさを紛らわせる娯楽」ばかりのように感じませんか。

ガチャをひたすら回して楽しむソーシャルゲームしかり、グルメや犬猫ばかりのテレビ番組しかり、激しい喜怒哀楽の表出や際どい格好をするだけで再生数を稼ぐYouTuberしかり。

パパ活の流行やストロング系のアルコール飲料の販売量増もこの類でしょう。

希望を持てない社会から目を背けさせてくれる、一時的快楽の希求が流行っています。

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