「ルックバック」 藤本タツキ 評価:4点|二人の創作者が歩んだ青春の記録、創作が持つ異形の力を添えて【短編漫画】

ルックバック

「チェーンソーマン」の大ヒットによって一躍名を馳せた漫画家、藤本タツキさんによる約140ページの短編漫画です。

集英社が運営するweb漫画サイト「少年ジャンプ+」に掲載されるとたちまちSNSで大反響を巻き起こし、「このマンガがすごい!2022」においてはオトコ編で1位を獲得するなど、短編漫画ながら飛ぶ鳥を落とす勢いのヒットとなった作品。

書店で単行本を手に取ったときも、その薄さと本体価格440円という安さに驚いたもので、いわゆる「読切」がここまでのセンセーションを巻き起こしたのかと思うと感慨深いものがありました。

しかもその内容が、あまり「ジャンプ」らしくないヒューマンドラマとなっているのも注目するべき点でしょう。

お調子者でギャグ漫画が得意な藤本と、不登校で背景画の天才である京本。

二人の劇的な出会いと別れ、夢を追うこと、友情の価値、そして「創作」という生業が持つ凄まじい力。

それらのテーマが、とても温かく、それでいて物悲しく描かれている傑作漫画です。

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あらすじ

お調子者の小学四年生、藤野歩が最近嵌っていることといえば、学年新聞に自分の描いた四コマ漫画を連載すること。

小学四年生にしては上手い絵と、やはり小学四年生にしては上等なギャグセンスによって同級生たちから人気を博していた藤本の漫画だったが、ある日、天狗になっていた藤野の鼻をへし折る事件が起こる。

事の発端は職員室でのこと。

藤野を呼び出した先生は、学年新聞の四コマ漫画連載枠を一つ、不登校の京本(きょうもと)という児童にも譲ってくれないかと藤野に頼むのだった。

学校にも通わず絵ばかり描いているという人物と聞いているが、まさか自分の腕前には敵うまい。

そんな心情で先生の申し出を承諾した藤野だったが、いざ掲載された京本の絵は小学生離れした緻密さと正確さを持っており、同級生からも「京本の絵と並ぶと、藤野の絵ってフツーだな!!」と蔑まれてしまう始末。

同学年に自分より絵のウマいやつがいる、そんなことは絶対に許されない。

悔しさのあまり未熟な自分に憤慨し、京本を勝手にライバル視して絵の勉強を始める藤野。

一方、勝手にライバル視されている京本も、実は藤野に対して特別な感情を抱いていて......。

感想

素晴らしい映画を見た後のような、あまりの感動にぽかんとしてしまうような漫画でした。

まず1ページ目を開いて驚いたのが「そうくるのか」と思わせるような画風です。

そこには「ジャンプ」系列の漫画雑誌で掲載されているような、いかにも「マンガ」的な絵ではなく、非常に現実寄りの人物と背景によってありきたりな学校生活のワンシーンが描かれておりました。

この絵柄を見た瞬間から、多くの読者は、漫画を読み始めるというよりも、実写映画を観始めるときのような心境に陥るでしょう。

加えて、本作の魅力はそのテンポにあります。

自分は絵のセンスがある、と思い込んでいた藤野が京本の絵に打ちのめされるまで僅か7ページ。

その間に藤野の性格やクラスメイトとの関係性が滑らかに理解できるようなコマがするすると続き、そして7ページ目に現れる、藤野が見せる驚愕の表情。

この藤野の「打ちのめされた」感が良いんですよね。

漫画的な誇張が適度に為されているけれど、ギャグマンガにはならないよう抑制されている。

本作の持つリアリティを削がない範囲で彼女が受けた衝撃の大きさが物語られる、誇張と抑制のバランスが非常によく取れた、印象的なコマになっています。

そこから描かれる、藤野の努力描写にも繊細な生々しさがあります。

少年漫画のような「修行」描写が為されるのではなく、教本を買い、ひたすら机に向かって絵を描き続ける藤野の後姿だけでその熱中ぶりを伝える抑制的な手法。

しかも、努力描写が終わった次のページで、「六年生にもなって」絵の勉強ばかりしている藤野を同級生が馬鹿にし、親姉妹からも心配される、という展開を入れてくる点にも構成の妙があります。

藤野が二年間の長きにわたって努力をし続けていたこと、それも、周囲が見えなくなるほど夢中になっていたことが「語らずの語り」で表現され、さらには、同級生による揶揄や姉からの諌言を受けて(二年振りに)我へと返り、あらためて京本との画力差を学年新聞で確認すると、自分より更に差をつけて上手くなっている京本がそこにいる、ということを藤野は発見してしまうのです。

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