【物語論】00年代の恋愛漫画「砂時計」から感じる現代の少女漫画から失われたリアリティについて
2000年代前半に雑誌連載され、人気を博した「砂時計」という恋愛漫画があります。植草杏(うえくさ あん)が小学生のときに東京から島根へと転向して同学年の北村大悟(きたむら だいご)と出会う場面から始まり、社会人になってから杏と大悟が結婚するまでの経緯が描かれる漫画です。北村夫妻は結婚後島根県で暮らすことになり、杏は介護の現場で、大悟は小学校教員として働きます。差別や偏見、倫理や道徳の問題に踏み込むような言動かもしれませんが、現実問題として、少女漫画(あるいは恋愛漫画)のヒロインが最終的に介護職員になるのはかなり珍しいのではないでしょうか。大悟と結婚する以前、杏は東京でも働いていたのですが、そのときも派遣の事務職員として働いていました。経済的に成功している、という類の職業ではありませんし、いわゆるヒロインが就きそうなキラキラした職業でもありません。一方、大悟の小学校教員という職業はどうでしょうか。それなりに社会的地位が認めらている職業ではありますが、決して高給ではありませんし、近年はブラックな労働環境について報道されることも多い職種です。また、小学校教員になるには大学で教職課程を履修しな...