【経済ビジネス】おすすめ経済ビジネス雑記5選【雑記まとめ】
「ヨコハマ買い出し紀行」芦奈野ひとし 評価:4点|滅びゆく世界が生み出す静かな感動【近未来日常系漫画】
1994年から2006年まで「月刊アフタヌーン」に連載されていた漫画であり、敢えてジャンル分けするならば「近未来日常系」とでも呼べる作品です。誰もが知っているような有名作ではないかもしれませんが、2007年の第37回星雲賞コミック部門を受賞するなど、SFとしての評価も界隈では高い漫画となっており、隠れた実力派という位置づけが適切でしょう。文明が後退した世界を長閑に生きる人々の、少し不思議でなぜだかとても感動的な日常に打ちのめされること間違いなしの傑作です。あらすじ海面上昇に伴って現在の沿海部が水の底に沈み、文明が後退してしまった日本が舞台。女性型ロボットである初瀬野アルファ(はつせの あるふぁ)は三浦半島の「西の岬」で「カフェ・アルファ」を経営している。といっても、一日に2,3人お客さんが来ればよいほうの暇なお店で、アルファはとても長閑に日常を暮らしていた。近所に住む「おじさん」や、その孫である「タカヒロ」と交流したり、ヨコハマへ買い出しに出かけたり、少し長めの旅に出たりする中で、アルファは様々な人々との出会いと別れを経験する。よもや人類には滅亡の運命しか残されていない「夕凪の時代」に...
人生で初めて落語鑑賞に行き、芸術家として生きる人生に憧れを感じた話
「天満天神繁盛亭」という落語の定席に、人生で初めて落語鑑賞に行きました。大阪にある唯一の落語定席(定例公演を行う施設)らしく、2006年に本施設が開園するまで60年以上ものあいだ大阪には落語の定席がなかったそうです。毎日、朝・昼・夜に分かれて落語の公演があり、私が鑑賞したのはある日の昼席でした。「平林」「尻餅」「河豚鍋」という三つの古典落語に加え、歌謡ショーと紙芝居、最後に現代を舞台にした新作落語が披露されました。私にあまり落語の素養がないからか、十分に楽しめたかと問われれば微妙なところです。(前説的な役割の方が「笑ってあげてください」のようなお願いを最初にするのは逆にしらけるからやめた方がよいのではないかと思いましたが、それだけ「落語」というものがもう誰にも笑えない演目になってしまっているのかもしれません)そんな「笑い」のない落語鑑賞でしたが、「天満天神繁盛亭」を去る私の胸には大きな感傷が残っておりました。落語鑑賞を行ったのは日曜日だったので、翌日は「仕事」に行かなければなりません、それなりにプレッシャーのある、それでいて自分が心から熱望しているわけでもない、それどころか、どちらかと...
【現代純文学】おすすめ現代純文学小説ランキングベスト5【オールタイムベスト】
本ブログで紹介した純文学小説のうち、1980年以降に出版された作品からベスト4を選んで掲載しています。「純文学」の定義は百家争鳴でありますが、本記事では、社会や人間について深く考えさせられる作品や、人間関係の機微を描いた作品、という緩い定義のもとでランキングを作成いたしました。第5位 「いちご同盟」三田誠広【いのちの価値を知るとき、少年は生まれ変わる】・あらすじ主人公は中学三年生の北沢きたざわ良一りょういち。学科の成績は平凡で運動神経もからきしなのだが、母親から指導を受けてきたこともあり、ピアノの演奏だけは特技だといえる。しかし、そのピアノも最近は上手くいっていない。良一は譜面が要求するリズムを乱してでも感情豊かに弾きたいのだが、譜面に厳格な母親からは突き放されている演奏法であり、自由に演奏させてくれない母親への苛立ちが募っていた。レッスンを受けているピアノ講師や、中学校の音楽教師は自分の自由な演奏を褒めてくれるのだが、高校の音楽科を受験して合格するためには正確さを優先する演奏法を磨かなければならないという点は彼女たちも認めるところ。普通科を受験したのではクズのような学校しか受からない...
「青が散る」宮本輝 評価:5点|テニスと恋愛、勝利と敗北、情熱と哀愁、青春の全てを表現した最高傑作【青春純文学】
1970年代から令和の現在にかけて第一線で活躍し続ける純文学作家、宮本輝さんの作品。1970~80年代には「泥の河」で太宰治賞、「螢側」で芥川賞、「優駿」で吉川英治文学賞を獲得し、2010年代にも「骸骨ビルの庭」で司馬遼太郎賞、「流転の海」で毎日芸術賞を獲得しており、その勢いは留まるところを知りません。その功績が認められ、2010年には紫綬褒章、2020年には旭日小綬章を授与されるなど、格の違う文化的功労者という立場を確固たるものにしています。そんな宮本輝さんの作品の中でも、本作は無冠の作品。松田聖子さんの「青いフォトグラフ」を主題歌にドラマ化がされており、人気作であることは間違いないのですが、宮本さんの代表作と呼ぶ人はすくないでしょう。しかしながら、私の個人的な読書経験史上において、本作は一、二を争う名作として燦然と輝いております。新設大学の一期生として入学した主人公を中心とした、せつなくて情熱的な青春群像劇。「青春小説」というカテゴリにおいて、日本の小説史上1番の面白さと趣深さを持っていると言っても過言ではない作品です。あらすじ主人公の椎名燎平(しいな りょうへい)は大阪府茨木市に...
「キッチン」吉本ばなな 評価:2点|天涯孤独の身となった女子大学生を包む「家族」の愛情【恋愛純文学】
1980年代後半から1990年代前半にかけてベストセラーを連発した小説家、吉本ばななさんのデビュー作。第6回海燕新人文学賞を受賞した本作は、当時としては斬新な文体と物語の質感によって文壇に大きな議論を呼び起こし、短編ながら1989年の年間ベストセラー総合2位を獲得する出世作となりました。その後も「ムーンライト・シャドウ」で泉鏡花文学賞(1988年)、「TUGUMI」で山本周五郎賞(1995年)を獲得するなど、まさに一世を風靡した時代作家となっていったわけです。また、父親が著名な思想家の吉本隆明氏だったという点も当時注目されたようです。そんな本作ですが、いまとなってはやや凡庸な、それどころか悪い意味で商業的な少女漫画の陳腐さを持った作品に感じました。柔らかいのだけれど張りつめた強さもあるような、そんな独特の言葉遣いによる表現力は確かに印象的で評価できますが、しばしば「死」に頼る設定や、あまりにご都合主義的な展開はそれほど魅力的ではないように感じられます。あらすじ大学生の桜井みかげは早くに両親を失い、祖父母のもとで育てられてきた。しかし、中学校へあがる頃に祖父が死に、先日、祖母も死んでしま...
「窓際のトットちゃん」黒柳徹子 評価:2点|マルチタレントの先駆けが通ったあまりにも自由で不思議な小学校【芸能人伝記】
日本における最初のテレビ放送開始(1953年)以来、常に第一線で活躍し続けている女優にしてマルチタレント、黒柳徹子さんが幼少期の生活について綴ったノンフィクション自伝です。発行部数は驚異の800万部超を誇り、単著としては戦後最大のベストセラーとなっている本作。世界でも売り上げを伸ばしており、中国でも1000万部を突破するなど、まさに世界的名作とされている作品です。とはいえ、個人的な感想としては単なる「いい話」の域を出ていないという印象でした。そもそも黒柳徹子さんという超有名タレントが出版しているという側面に加え、作中で描かれる自由で温かい学校生活の在り方が管理教育全盛だった出版当時(1981年)の状況に対する反逆として「刺さった」のも大きかったのでしょう。ただ、昨今の教育を取り巻く事情を鑑みると、本書が再び脚光を浴びる時期も遠くないように感じます。主人公のトットちゃん(=黒柳徹子さん)は多動症気味の子供で、クラスメイトにも身体障害を抱えている子供や帰国子女の子供が登場します。差別を受ける外国人(朝鮮人)の子供に纏わるエピソードも登場するなど、いかに多様性を認めあい、それを活かしてゆくの...
「仮面の告白」三島由紀夫 評価:2点|同性愛者であることの苦悩と官能が青年の人生を蝕んでいく【古典純文学】
「潮騒」や「金閣寺」等の作品で知られ、戦後を代表する作家の一人として挙げられることが多い三島由紀夫の著した小説。三島由紀夫を文壇の寵児へと押し上げた記念碑的作品であり、代表作を一つ選ぶとすれば本作か「金閣寺」になるというくらいの有名作品です。同性愛を描いた刺激的な作品ということで、私もその革新性に期待して読んでみたのですが、いまとなっては凡庸だなというのが率直な感想。小難しい書きぶりは良くいえば芸術的で妖艶なのでしょうが、個人的には無駄に装飾的なように思われましたし、自分自身が同性愛者であることを主人公が徐々に理解しながら苦悩する、という筋書きにもそれほど衝撃を受けませんでした。つまらないわけではないですが、今日において特段に持て囃されるべき作品かと言われれば、それは違うという印象です。あらすじ病弱な身体に生まれた「私」は、祖母によって外遊びを禁じられ、祖母の眼鏡に適った女友達とばかり遊ぶ幼少期を過ごすことになる。そんな「私」はしかし、幼い頃から女性に惹かれることがなく、魅力を感じるのは専ら逞しい男性の肢体ばかりであった。しかし、大学生になった「私」には園子という恋人ができる。園子に対...
「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】
キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。あらすじ旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けいぞう)が主人公。妻の夏枝(なつえ)と長男徹(とおる)、長女ルリ子(るりこ)...
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】
「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。あらすじバグダッドから陸路でロンドンで帰る途中、ジョーン・スカ...
「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティ 評価:3点|真冬の国際寝台列車で起こる静謐で哀切な殺人事件【海外ミステリ小説】
「ミステリの女王」という異名を持つ稀代のミステリ作家、アガサ・クリスティの作品。「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「アクロイド殺し」等に並ぶクリスティの代表作として知られており、1934年の作品ながら、今日においても版を重ねている歴史的ベストセラーとなっております。日本語の新訳版も2017年に出版されており、国内においても人気の高い小説です。個人的な感想としても、ミステリ小説として十分に楽しめる作品であり、また、世界各国の富豪が乗り合わせる1930年代の国際寝台列車という独特な雰囲気も味わい深いものでした。あらすじ舞台は真冬の欧州を走る国際寝台列車オリエント急行の車内。ロンドンへ移動するため、名探偵エルキュール・ポワロはイスタンブール発カレー行の列車に乗車していた。しかし、猛吹雪に飲まれた列車はヴィコンツィ(クロアチア)とブロド(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)のあいだで立ち往生してしまう。不安と焦燥に包み込まれる車内、そして事件は起こる。サミュエル・ラチェットというアメリカ人実業家が刺殺された姿で発見されたのだ。ポアロは乗り合わせた乗客たちを一人一人呼び出し、尋問にかける。相矛...
「万引き家族」是枝裕和 評価:2点|奇妙な絆で繋がる偽りの家族【社会派映画】
「誰も知らない」「そして父になる」など、社会派の映画監督として国内外で高い評価を受けている是枝監督の作品。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得したことで日本国内でも一躍有名になりました。リリー・フランキーさんや安藤サクラさんの名演でも知られ、2018年を代表する日本映画だといえるでしょう。そんな本作ですが、個人的にはそれほどの名作とは思えませんでした。社会問題にフォーカスすることが少ない日本映画では珍しく、家族の在り方や貧困問題を描いている社会派映画のヒット作ということで期待はしていたのです。しかし、実際には単なる社会問題事例集に留まっていて、映画としての本作を面白くするような物語が存在しなかったと感じました。個々の要素は良いのですが、それらの繋ぎ方や組み合わせ方によって物語に起伏を生み出すことに失敗しており、「映画」というよりは「映像集」になってしまっていた印象です。あらすじ舞台は東京。豪華絢爛な都会ではなく、団地や古い一軒家が並ぶ下町の一角。そこには5人家族の柴田一家が住んでいる。父の治は日雇い労働者で、母の信代はクリーニング店のアルバイト。二人の給料と祖母である初枝の年金が一家...
「アイの歌声を聴かせて」吉浦康裕 評価:2点|AI搭載の転校生がもたらす波乱万丈の青春学園物語【アニメ映画】
2021年10月29日に公開されたアニメ映画で、監督は吉浦康裕さん。「イブの時間」「アルモニ」「さかさまのパテマ」等の作品を手掛けた監督で、国内の映画祭では文化庁メディア芸術祭では複数回入賞しており、アニメ映画界隈では知られた存在です。そんな吉浦さんにとって久方ぶりの長編作品となる本作ですが、その内容は「イブの時間」 と同じく、吉浦さんのライフワークともいえる「AIとの共存」と「高校生学園もの」を掛け合わせた作品。序盤の展開こそAIという要素を活かした面白い側面も見られましたが、全体としては凡庸な青春学園物語だったという印象があり、ぎりぎり佳作とは言えない凡作だと感じました。あらすじ舞台は世界的な巨大企業「星間エレクトロニクス」のAI実験都市である景部市。極めて同質性の高い企業城下町となっており、市立景部高校に通う生徒の親はたいてい星間の関連企業に勤めているというほど。農業ではロボット田植え機が活躍し、市内を走るバスは無人運転など、AI実験都市らしい光景が日常に溶け込んでいる。そんな景部市に住む高校生、天野悟美(あまの さとみ)の母親も星間エレクトロニクスに勤めており、エリート研究員が...
「サマーゴースト」loundraw 評価:3点|高校生たちと幽霊によるひと夏の不思議な経験【アニメ映画】
2021年11月12日に公開された上映時間40分の短編アニメーション映画です。監督はイラストレーターのlaundrawという方で、近年書店でよく見かけるようになった青春系ライト文芸の表紙イラストを多く手掛けている人物。やたらに青色で窓や空から光が神々しく射しているあの画風ですね。イメージとしては、以下のような小説の表紙が代表的だと言えるでしょう。また、脚本はエンタメ小説家として往年の売れっ子である安達寛高(=乙一)さんが務めており、イラストレーター出身者による監督と小説家出身者による脚本という野心的な意欲作となっております。上映館も多くない作品ですので、そこまで期待せずに観に行ったのですが、思っていたより良質な作品だったという印象。高校生たちが経験したひと夏の不思議な体験がさらりと描かれており、気軽に鑑賞するには十分な作品です。あらすじインターネットを通じて知り合った3人の高校生、友也、あおい、涼。特定の場所で夏に花火をすると現れるという幽霊「サマーゴースト」を呼び出すため、三人は空港の跡地へと向かう。滑走路の上で次々と花火を消費していく三人。やっぱり、単なる都市伝説だったのか。そう思...