曰く、ガーゴイルウィザードは仲間と一緒に魔導書の研究をしていたが、完成間近になって仲間たちが実際にこの魔法を使うと言い出したので、ガーゴイルウィザードは魔導書を騎士団に売り渡してしまったのです。
この密告により、ガーゴイルウィザードの仲間たちは騎士団によって処刑されますが、ガーゴイルウィザードだけは密告の見返りとして許されます。
こういった経緯でガーゴイルウィザードは生き残るわけですが、仲間を全員騎士団に売り渡したため、もう彼女に仲間はいません。
世界を救ったはずなのに、自分に与えられたのは惨めな孤独。
その状態に耐えかねたガーゴイルウィザードは、彼女が裏切ったことを知らないまま死んでいった仲間たちの遺言の達成、つまり、魔導書の完成に取り組み始めるのです。
最終的にガーゴイルウィザードはスペクトラルウィザードの説得と助言によって塔の成長を止めるのですが、スペクトラルウィザードが決してガーゴイルウィザードを責めないのがいいですね。
「私たちは損な役回りだな……」
そんなスペクトラルウィザードの呟きが空しく響くのが優しさと切なさをオフビートに表現する本作を象徴しているようです。
正義を信じて仲間を裏切ったがために陥った孤独。
悪事を実行しようとしていた「仲間たち」と行動を共にしていた方が幸せだったのか。
ここにもまた「居場所」や「関係性」についての深い洞察があります。
物質的には豊かになった現代社会であっても、悪い宗教団体であったり暴力団のような集団に惹かれていく人々がいる理由。それはやはり「居場所」や「関係性」の中で汗を書くことが人間の生きがいだからではないでしょうか。
集団に貢献するという種類の生きがいを感じる生活の中で、ごく少数の人々はガーゴイルウィザードのようにその集団の行為全体が善か悪かを気にするかもしれません。
しかし、多くの人にとって、例えば、ガーゴイルウィザード以外の魔導書研究チームのメンバーにとって、善か悪かは気にならなかった。
あるいは、気にしていたとしても、命の炎を燃やして集団に貢献し、魔導書研究に熱中する道を選んだのでしょう。
善や正義の道を行くことがときに孤立を招き、閉じた集団内で悪を為す方が盲目的ながら幸せに生きることができる。そんな皮肉が描かれております。
結論
マイナーな作品ですが、それなりに面白かったですね。淡々とした物語進行が却ってテーマの壮大さを際立たせています。
絵柄・物語・会話・価値観とどれをとっても独特な作品なので好みは分かれるでしょうが、個人的にはいい作品だと思いました。
コメント