集英社から発売されている「学習漫画・世界の伝記」シリーズ。
世界史上で活躍した様々な人物の生涯を漫画で紹介するというシリーズの中から、今回はたまたま興味を持って読んだ「ジャンヌ・ダルク」のレビューをいたします。
小学生向けに書かれた学習漫画だけあって非常に読みやすく、(おそらく本作の狙い通りに)ジャンヌ・ダルクの生涯について知見を深めることができました。
それにしても、本当に奇跡のような生涯で、時おり起こるまさに漫画のような展開はそれが歴史的事実であるという点において驚愕させられます。
あらすじ
1412年1月6日、フランス東部ドンレミ村の農家に一人の少女が生まれた。
ジャンヌと名付けられたこの赤子こそ、後にフランスの英雄となるジャンヌ・ダルク。
このとき、フランスはイギリスとの百年戦争を戦っており、戦況は劣勢。
パリを中心とする北部はイギリス側についたブルゴーニュ公の手に落ちており、フランス側を率いるシャルル王太子はシノンという町でひっそりと身を隠している有様だった。
そんな戦争の渦中で育っていたジャンヌだったが、13歳のある日、神からのお告げとして「天使の声」を聞く。
「王太子シャルルに会い、彼を国王に即位させ、フランスを救いなさい」
幻聴とも思われるような「声」だったが、ジャンヌが「声」を聴く頻度は次第に多くなっていく。
そして、はじめて「声」を聞いてから三年後、ジャンヌは叔父のデュランに「声」のことを打ち明け、ドンレミ村の近くにあるフランス側の拠点、ボークルールに連れていってもらう。
「声」の指示に従い、ボークルールの守備隊長にシャルル王太子への謁見を懇願するジャンヌ。
当然、どこの馬の骨とも知らないような娘の頼みなど一顧だにしない守備隊長だったが、何度も請願に訪れるジャンヌのことがボークルールの街では噂になっていて.......。
感想
一介の村娘が「神のお告げを聞いたから」という理由でシャルル王太子への謁見を目指し、それが本当に叶ってしまい、それどころか、シャルル王太子に信頼されて軍経験なしでいきなり司令官を任じられ、そして司令官としてイギリスに対して連戦連勝していくという、まさに奇跡の連続としか表現できない史実には驚くばかりです。
作中でジャンヌはしばしば突飛な主張をするのですが、どんなに論理的で常識的な指摘や反論を受けても「神様がそう仰っているから」の一点張りで突き通し、結果的にジャンヌの主張が正しくなっていく様子はまさに「神が遣わした少女」という表現に相応しい人物だとしか言いようがありません。
神学教授や司教からの審問に対してどこまでも敬虔なカトリック教徒として答え、その真摯さにカトリックの専門家たちが心を打たれていくという描写も圧巻。
「自分たちよりも『神を信じる』とはどういうことかを知っているのではないか」と周囲を感心させていくカリスマ性はまさに歴史の英雄です。
そして何より面白いのは、バトル漫画の強キャラ的「最強描写」がところかまわず現れる点です。
重要拠点オルレアンに攻め入る際、フランス軍の幹部は「いまは風向きが悪く船による渡河が難しい」とジャンヌに助言します。
しかしながら、ジャンヌは空を見上げて呟くのです。
「風は変わります、かならず変わるわ」
その瞬間、ふと風向きが変わります。
「わたしが風向きを変えたのではありません。なにもかも神のご意志です」
風向きが変わったあと、さも当たり前のようにそう言い放つジャンヌの「最強感」にはまるで週刊少年ジャンプの漫画を読んでいるかのようなゾクゾク感を禁じえません。
そして、「最強」だからといってあらゆる栄誉を手に入れる人生を送るわけではなく、国王に即位したシャルルに裏切られ、イギリス軍により捕縛、最後は不正な宗教裁判により火刑となり、劇的な最期を遂げるというのもまさに英雄の数奇で鮮烈な運命を感じさせます。
wikipedia代わりに(wikipediaの記載が小難しいので)読もうと思って手を出した漫画でしたが、想像以上に面白く、「事実は小説より奇なり」を肌で感じました。
現在、バトル漫画では「鬼滅の刃」が流行していますが、現実にジャンヌ・ダルクのような人物がいたのですから、「鬼滅の刃」の登場人物や作中での展開・戦闘も一概に非現実とは言えないのではないかと思ってしまうくらいです。
一人の英雄によってもたらされた、漫画のような奇跡的勝利。
その一端を垣間見ることができる作品です。
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