「NANA」「天使なんかじゃない」「Paradise Kiss」など多くの代表作を持つ少女漫画家、矢沢あいさんの作品。
1990年代の中盤に「りぼん」で連載され、同時期にアニメが放映されていたことから、若手社会人世代にとって懐かしい作品だといえるのではないでしょうか。
「天使なんかじゃない」からゲスト出演しているキャラクターがいたり、「Paradise Kiss」が同舞台での数年後の話になっているなど、他の矢沢あい作品とのリンクが楽しめるのも特徴です。
そんな本作ですが、総合的な評価としては凡作だと感じました。
少女漫画の肝である恋愛面、そして、デザイン系の高校を舞台にしているというところから発される夢を追う若者という面。
その両面においてやや盛り上がりに欠けてしまった印象です。
あらすじ
幸田実果子(こうだ みかこ)は矢沢藝術学院に通う高校一年生。
夢はファッションデザイナーとして自分のブランドを立ち上げることで、服のデザインについてはその才能と熱意が学院内でも認められている。
そんな実果子には同学年の幼馴染、山口ツトム(やまぐち つとむ)がいる。
同じアパートの別室に住み、幼い頃からつるんできた腐れ縁の彼も矢沢藝術学院の生徒であり、実果子はツトムを含めた友人たちと楽しく学園生活を過ごしていた。
そんな中、ツトムにアプローチを仕掛ける人物が現れたことが実果子の心をかき乱し始める。
彼女の名前は中須茉莉子(なかす まりこ)。矢沢藝術学院の二年生でミス・ヤザガクに選ばれた美貌の女性。ツトムと茉莉子の関係に実果子の心は動揺するが、実果子のツトムに対する気持ちは定まらない。
人生の岐路となる学園生活。
恋愛に、そしてキャリアのスタートに、実果子や周囲の人々はどのような決意と行動を起こすのか。
恋と夢に駆ける王道学園物語。
感想
話の筋としてはかなり普通な少女漫画なんですよね。
主人公には幼馴染の男性がいて、彼にアプローチする女性が現れる。
それをきっかけに主人公が恋心を自覚する。
主人公の周りでも、学園生活の様々なイベントを通じてカップルが生まれたり別れたりする。
という、ただそれだけの話です。
べつにつまらない訳ではないのですが、まぁ、ありがちで凡庸だよねというエピソードが多いという点は否めないでしょう。
加えて、ちょっと普通レベルより弱いなぁと思ってしまったのは、実果子がツトムに想いを寄せる理由です。
実果子にとってツトムが非常に頼りになる存在であるということがその理由なのですが、それを示す事件や経緯のほとんどが作中時間(高校での生活)よりも前の、実果子の回想の中で語られる事象なのです。
もう少しでも、作中で主に描写されている時間帯で、まさに本作の本筋となる部分で二人が惹かれ合う描写があると、盛り上がったのにと思います。
また、恋愛面と並ぶもう一つの筋である夢を追うという点もやや浅かったです。
主人公の前に立ちはだかる壁や、主人公が抱く悩みに魅力がありません。
留学に行くかどうかが悩みの焦点になったりするのですが、基本的に留学に行かない理由は主人公の勇気不足。
もちろん、現実にはなかなか勇気が出ないことではあるのですが「最終的にはなんだかんだ言って留学に行くんだろ。別に行かないことのメリットないし」という安直な展開予想が容易にあてはまる流れだったのは少し残念です。
選び難い二択を目の前にしてジレンマに苦しむといった盛り上がり要素がなく、葛藤の描き方も画面の勢いだけで中身が薄いと感じました。
さらに、そもそも一般人からは共感しがたい境遇の登場人物ばかりが出てきて感情移入が難しいんですよね。
誰も彼もお金持ちで顔も良く、芸術系の才能もあるという面子になっていて、デザイン系高校の話という点も相まって主人公たちの生活が超人たちの遊びに見えてしまいます。
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