1. ネバーランド
「夜のピクニック」で第2回本屋大賞を受賞し、それ以外にも数々の名作がある恩田陸さんの作品。
「夜のピクニック」同様、高校生の濃密な青春を描いた本作ですが、独特の暗さと明るさが共存した作風を楽しむことはできました。
ただ、やや現実感を無視した、かつテンプレートな設定が食傷気味ではあります。
2. あらすじ
田舎にある伝統的な男子校。その一角を占める寮は名前を「松籟館」という。冬休みの間、事情があって帰省しない生徒はここに残って生活している。この冬、松籟館に残った生徒は3人。美国、寛司、光浩。
そこに下宿に残ったままの統が加わり、4人での暮らしが始まった。普段とは異なる雰囲気に緊張する美国。独特な雰囲気のなか、初日の「告白」ゲームで統が衝撃の告白をする。しかし、特別な過去を持つのは統だけではなかった。
次々と起こる不思議な事件、徐々に明らかになる四人の過去。うだるように陰鬱で、突き抜けるように明るい青春の七日間の物語。
3. 感想
雰囲気は非常に良いです。
男子高校生四人が休暇に寮で共同生活するという設定だけでもわくわくするものがありますが、恩田さんの語り口はその不思議な高揚をぐっと後押ししてくれます。四十人でいる教室と、四人でいるときとの役割の違い。緊張をはらんだ様子見、ふと何かを告白したくなる雰囲気。文章からは、生身の彼らの息遣いさえ聞こえてくるようです。
ただ、肝心の物語はややテンプレ気味。親が離婚しそうだとか、トラウマからの女性恐怖症だとか、義母との性的関係だとか。結局、四人が抱える事情は安いメロドラマを越えません。四人のすさみ、不良感を出す道具も飲酒と喫煙では使い古された感が否めません。また、特にこれといったような伏線もなく、四人の心境の変化も驚くべきものではありません。
人形を吊るしたのが美国というところに「信頼できない語り手」構造も見られますが、物語の本質ではないでしょう。
星は2つですが、恩田さんの文章が好きだから1ではなく2にした次第です。「恩田陸の描く高校生」が好きならば読めますし、そうでなければ読めない作品でしょう。
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