本作におけるヒトラーは、そういった娯楽が流行している様子を見て、鼻で笑ったり大げさに嘆いてみたりというような、大上段に構える知識人的な態度を取ったりはしません。
どこまでも真摯な態度で「それほど苦しいのかい」と問いかけるのです。
本当にぐっとくる言葉ですよね。
脚本全体が良質だとは言えない作品ですが、この台詞は脚本家(あるいは原作者)の面目躍如だと言えるでしょう。
加えて、ナチ党の後継者を自認する国家民主党の本部へと乗り込む場面もまずまず見どころです。
国家民主党幹部との面白い応酬があるわけではないのですが、本作のヒトラーは国家民主党を(ついでに言えばドイツのための選択肢も)馬鹿にするんですよね。
彼らは軟弱者だらけの何もできない集団であると。
ヒトラーはFacebookで現代版SS(親衛隊)への入隊希望者を集めたりもするのですが、ここでもかつてSSが誇った威容からは想像できないくらいひょろガリの甘えた若者が集まります。
身体的にも精神的にも軟弱な人間が縋る、アイデンティティの拠り所。
現代の極右政党はそんな虚しい集団に過ぎないという構造を炙り出しているわけです。
そんなヒトラーが、現存するドイツの政党の中で唯一見どころがあると言及した政党こそ緑の党。
工業化の進展と並行して国土の汚染が進む中、緑の党は地道な環境保護活動を通じて祖国の環境を守ってきたと高い評価を与えています。
ナチ党の政権下において環境保護政策が相当程度拡大されたのは有名な話ですが、このあたりにもリアルなヒトラーの嗜好を反映させているのが面白いところ。
軟弱者がアイデンティティの拠り所として依存している極右政党よりも、身体を動かし汗を流しながら環境保護活動に取り組んできた実行人たちの政党を評価するという点に、行動力こそ全てという成功者(独裁者もある種の社会的成功者でしょう)の価値観が現れているのだと感じました。
のっぺりとした脚本ながら、要素要素は見るべき点もある作品。
評価は3点にしようかと思いましたが、やはりドラマ性の欠如を考慮して2点(平均的な作品)といたします。
過度な期待は禁物ですが、タイトルに惹かれるならば手に取ってみてもよい作品でしょう。
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