また、サトミの生活も問題を抱えており、学校では孤立していて、家庭では仕事を頑張る母親を応援している、つまり、自身のアイデンティティが「母親を支えている」ことだけに依存しているわけです。
職場では男性社会を敵視していて、家庭における娘からの応援が心の支えになっている母親と、学校では孤立していて、母親を支える自分像だけが心の拠り所なっている娘。
この歪な共依存関係は作中においてあまり強調されないですが、片親家庭やヤングケアラーの家庭が陥りがちな状態でもあるのではないでしょうか。
そんな折に転校生がやってきて、「サトミ、今、幸せ?」と連呼する。
これは非常に刺激的な描写になっていて、本作が序盤においては面白いと感じられる作品となっている理由の一つに挙げることができます。
サトミたちがシオンを学校外に連れ出した事件を契機に、学校からの偽データ送信という事実も発覚してしてしまい、高性能AI搭載ロボットを学校という場所で実験的に動かすというプロジェクトは失敗に終わります。
プロジェクトが頓挫して絶望に暮れる美津子は、子供たちの本社突入作戦をサポートする側に回るのですが、最終的には星間エレクトロニクスの社長が直々に彼女を赦して一件落着。
シオン関連の事件が終わったあと、娘と一緒にテーマパークへと行ったことが描写されて美津子の物語は終幕を迎えます。
学校で友達ができたサトミと、仕事の圧迫から解放された美津子が、家庭外で一緒の時間を過ごす。
これが親子関係回復の契機になるのでは、という予感を抱かせて終わるのは綺麗ですね。
会社関係の写真とトロフィーばかりだった棚にテーマパークで撮った写真が加わっている場面は印象的です。
学園物語が凡庸一直線になってしまうくらいならば、もう少しサトミと美津子の関係を掘り下げて、家庭編を緻密に描写した方が濃厚な物語にできたのではという気さえします。
最先端IT企業で働くシングルマザーの母親が職場や家庭でどう過ごし、何を感じているのか、というのは、むしろアメリカ映画でありそうな話ですよね。
ただ、それをするには企業勤めの男性たちに対する描写が浅すぎます。
美津子の視点から見た、仕事の駒的な部下たちと、冴えない非管理職の年上男性、自分を虐めようとする嫌みな上司、というステレオタイプな属性付けしかされていない星間エレクトロニクスの従業員たちの描き方はどう考えても手抜きです。
こんな「職場」描写ばかりでは、やはりアニメは学校か異世界しか描けないのだと見られても仕方がないでしょう。
(とはいえ、学校の描写も非現実的なのは上述の通り。付言すれば、サトミがクラスで浮いている理由も「学校の英雄であるサッカー部員たちが電子工作部室で喫煙しているのを告げ口したから」であり、近未来の話であるはずなのに、いつの時代だよというエピソード構成には辟易します)
序盤の導入はSF的ギミックも含めて優良ですし、ミュージカル要素も悪くなかったですが、学園ものとしての筋書きも、高校生たちの大人に対する挑戦という物語としての筋書きも、巨大企業における社会人たちの抗争という物語としても悪い点が目立っていた作品。
美点もあるのですが、どうしても悪い要素が目に付いたため、少し辛めですが評価は2点(平均的な作品)とします。
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