漫画 「orange」 高野苺 星2つ

orange
スポンサーリンク

1. orange

2015~2016年における大ヒット漫画の一つで、名前くらいは聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。「このマンガがすごい!」などでランキング上位入りを果たし、累計発行部数は500万部近くに到達。アニメ化はもちろん、土屋太鳳さんと山崎賢人さん主演で実写映画にもなっています。高野苺さんが漫画家としてジャパニーズドリームを掴んだ作品ともいえるでしょう。

おおまかな感想としては、「未来から手紙が届く」というSF要素と王道少女漫画展開を合わるという手法が斬新で(意外にもこれまでなかったんですね)、画力も高く、双葉社版の装丁も魅力的で大ヒットしたのは頷けます。ただ、主人公二人の魅力と、物語の作り込みという点ではイマイチな点が多く、じっくり読んで味わうには不十分だと感じました。後世に残る作品というよりはカジュアルに消費されていく作品の成功作という印象です。

コミックス – 2013/12/25

2. あらすじ

舞台は長野県松本市。高校二年生に進級した高宮菜穂(たかみや なほ)は、始業式の日の朝に奇妙な手紙を家の郵便ポストに発見する。差出人は10年後の自分で、自分の後悔を繰り返さないようにするため、手紙の内容の通り行動して欲しいという内容の文面。半信半疑の菜穂だったが、学校に行くと手紙の内容通りの出来事が起こっていく。

手紙の内容をひとまず信じることにした菜穂だったが、先々の日付の手紙を読むうちに、菜穂はある「未来」を知ってしまう。始業式の日、転校してきた成瀬翔(なるせ かける)が、三年生になる前に自殺してしまうというのだ。菜穂たちのグループの一員となり、友達になっていく翔。そして、菜穂と両想いの翔。彼を救うため、菜穂は手紙通りの行動を起こしていくのだが......。

3. 感想

本作品は「リア充文学」的な側面がありまして、ヒロインである菜穂が所属しているのはスクールカースト最上位グループなんですよね。須和弘人(すわ ひろと)はサッカー部のエースで、明るく面白く頼りになる男子。普通の少女漫画でヒーローを務めてもおかしくなく、実際、翔が自殺した未来では菜穂と結婚しています。村坂あずさ(むらさか あずさ)はいわゆる「ギャル」で、ファッションセンスとツッコミのセンスに長けたムードメーカー。萩田朔(はぎた さく)はお笑いを愛する変わり者で、男子ながらグループのマスコット的存在。いじられ役でもあります。茅野貴子(ちの たかこ)はスタイルのいいクールな女子で、ハイスペックなお姉さん的ポジション。この男女5人グループに、さらに(心も)イケメンの翔が入ってきて波乱を起こすという、まさに「神々の戯れ」的なレベルでの物語というわけです。

そんなわけで、人間関係を主題にした作品にありがちな陰気で惨めな葛藤はありません。 おそらく、漫画家とか小説家という人種はそういった陰気で惨めな葛藤に苛まれたり、通常では想像もつかない奇妙なことで悩んだりするので、こういった「平均以上の人々にとっての普通」を素直に描いていけるという技量は漫画界の中で希少性が出るのだと思います。「恋空」的斬新さとでも言いましょうか。あのような内容はある程度の人にとってリアルなのですが、漫画家や小説家はその「ある程度」の人である確率が低く、そういった「リアル」を体験しないで大人になってしまう人がおそらく多いのだと思われます。いまやリア充的な人々さえ(大人になってからも)漫画を読む時代ですから、彼ら彼女らにリアリティやノスタルジーを感じてもらえる作品、という需給ギャップたっぷりのブルーオーシャンに投げ込まれた本作はマーケティングの大勝利なのだと思います。高野苺さんがこういった「リア充文学」を描けるという点で卓越しているのはもちろん、そこに可能性を見出した編集者や出版社もあっぱれでしょう。

また、そういったリア充文学だからこそ出すことができる、葛藤なき素敵行動連発の爽快感。そのテンポの良さがページをどんどんめくらせていくんですよね。友達のためにこんなことをやるぞ、と決めたら躊躇いなく実行していって、どんどん距離を詰めて華やかな想い出をつくっていく感じです。友情の基盤がしっかりしていて、自分たちの行動はイケてて恥ずかしいことなんかじゃないという自信が(というかそんなことも意識しないのでしょうが)あって、だからこそ「素敵な」大胆行動ができる。翔にサッカー部入りを勧めたり、遊びに誘ったり、翔と一緒に出るためにクラス対抗リレーに立候補したり、誕生日を派手にお祝いしたり、手を繋いだり抱きしめ合ったり。ドラマになるような「学園生活」ってこうだろうなと思えるような展開が、ときに「こんなに上手くいくか?」と思わせながらも勢いの説得力で進んでいきます。

そんな感じで、「深い部分はないがページをめくらせる力はある」という作品になり切れれば星3つかなと思っていたのですが、所々引っかかる部分がありまして、それが星を下げた理由です。

一つは、ヒーローとヒロインの(相対的)魅力のなさです。

ヒーローである成瀬翔は(始業式の日に母を亡くしたとはいえ)基本的にウジウジしているだけで、自らの力で周囲を助けよう、誰かの役に立とうとすることがありません。一応、ヒロインである菜穂に好かれているという設定があるので、翔が元気になると菜穂が喜ぶのですが、周囲が翔を助けるため半自動的にがむしゃらになっていることも含めて、「なんだか翔にとって都合の良い世界だなぁ」と思ってしまいます。翔を自殺させて菜穂は須和とくっついた方が幸せなんじゃないかという気持ちが頭をよぎってしまうことがあり、「翔を助けるんだ、彼に助かって欲しいんだ」という物語の軸となる感情に共感することがやや難しい面がありました。

一方、ヒロインの菜穂も極めて受け身であり、一人では手紙の内容を淡々と実行していくだけです。手紙の指示が直感的には翔の幸せに直結しなさそうなことだったとき「本当に手紙の通りでいいのか?」と悩み始めたのは須和でしたし、「辛いことがあったら正直に言ってくれよ、友達だろ」と、核心的な部分について翔の心を解きほぐそうとしたのも須和です。何が本当に翔のためになるのか、自分たちのやっていることは本当に正しいのか。その問いを自分に投げかけ、自分の頭で考えて行動する須和がむしろ(男性ですが)ヒロインのような役割を果たしています。菜穂はいつも、そんな須和やアズ、貴子にお膳立てしてもらって翔との距離を詰めるだけで、「いいやつだな」と思えるのがヒーローとヒロイン以外の3人という状況が生まれてしまっているのです。これでは素直に二人を応援しようとはならないでしょう。そして、それが少女漫画の肝なのですから、評価を下げざるを得ません。

二つ目は最終盤の展開です。

結局、翔は「みんなとの想い出が大切で、みんなと明日も過ごしたいから」自殺を思いとどまるのですが、ただそれだけなんですよね。これって読者全員が予想していたというか、そりゃあそうなるだろうというオチ。マクロ的にこの物語を見ると、翔の自殺を止めたい→翔を楽しませよう→楽しませる→自殺防いだ、というだけになっていて、起伏なくあまりにもあっさり終わってしまった印象があります。翔が自殺しそう、という場面になっても、どうせ思いとどまるだろうという予想があったのでそこまではドキドキしませんでした。もう一つ二つ伏線を引いて、「もしかしたら」と思わせたり、「自殺はしなかった、でも...」という展開があれば盛り上がりが持続したのではないでしょうか。やはりクライマックスが盛り上がらないと「良い」作品の基準である星3つは躊躇います。

全体の感想としては概ね上の感じなのですが、一つだけ気に入った台詞を紹介したいと思います。少女漫画の定番として「顔は可愛いけど性格の悪い女子がヒーローを狙いに来る」という展開あり、本作品でも序盤で展開されます。そんな当て馬を、ヒーローがどう評するかというのはなかなか難しいところで、否定的に言いつつも、ヒーローの品位を汚さないような台詞回しが必要になります。

そして、本作が採用した台詞。「顔は好き」。

これが私には斬新なものに感じられました。 「顔は可愛いけど性格の悪い当て馬」を評して「顔『は』好き」。これだけでヒーローが何を言いたいか分かりますよね。単純で、ある意味正面突破ながら、これまで試みられなかった、灯台下暗し的な革新性に驚きました。高野先生のセンスには脱帽です。

4. 結論

評価は星2つですが、ぐいぐい読み進められるようなリーダビリティはあります。全6巻ですし、軽く読んで即物的な感動を得たい場合はむしろオススメですね。ただ、人生に影響を与えるようなメモリアルな作品とはなり得ないでしょう。

コミックス – 2013/12/25

コメント