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「蹴りたい背中」綿矢りさ 評価:4点|スクールカーストを題材に青春の焦燥を描いた現代学園小説の古典【青春純文学】

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蹴りたい背中
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高校在学中にデビューし、史上最年少で芥川賞を獲った超有名女性作家、綿矢りささん。

その芥川賞の受賞作が、印象深いタイトルの本作品です。

感想を一言で表しますと、「常にクライマックス」。

名作を読み終えるときの、あのふわふわした興奮。最後まで読みたい、でも終わらないでという気持ちが常に胸の内から湧きおこってきます。

青春時代に、少しでも疎外感や孤独を感じた、あるいは、そのようなことについて思考を巡らせたことのある人にはぜひ手に取ってもらいたい作品です。

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あらすじ

「今日は実験だから、適当に座って五人で一班つくれ」そんな号令が飛ぶと、「余り物」になってしまう高校一年生。

名前は長谷川初実、通称ハツ。

そしてハツのクラスにはもう一人「余り物」がいる。

オリチャンというアイドルのファンである「にな川」だ。

いや、にな川のオリチャンに対する執着は「ファン」を超えている。

ハツがそう評するくらい、にな川は熱狂的だ。

「オリちゃんと喋ったことがある」

ハツがそう言ったことをきっかけに、ハツはにな川の家に誘われるのだが......。

他人と交わって「薄まる」ことを拒絶するハツと、交わらないことにさえなにも感じていないにな川。

孤独と、強がりと、青春の衝動。二人の心の、微妙な交わりと変化。

感想

これが売れるのは分かります。感動できる作品でした。

クラスメイトの表層的な馴れ合いを蔑みながらも、強がっている自分が一番惨めだと知っている感じ。

アイドルに執着して社交性を持っていないことすら気にしていないにな川を見て、焦れて蹴りたくなって、でもなんで焦れるかというと、そこに自分の姿を見るから。

そう、ハツに話しかけてくれる絹代のようなクラスメイトから見たら、ハツのように現実に適応せず、寂しい孤高を抱えている姿こそ蹴りたい背中なのです。

ハツは他人全てを拒絶しているように見えますが、それも違います。

「認めてほしい、許してほしい」とハツ自身が意識していること。

スクールカースト最下位の絹江のグループだけを侮蔑していること。

ハツは自分が「最下位」人材であることを認めたくないのです。

でも、そんなハツが、最下位のさらに下にいるようなにな川に惹かれていく。

ハツなど存在しないかのように、ただ熱心に他のものに執着している。

そんなにな川の「まとわりつかない」態度は、ハツにとって新鮮だったはずです。

そしてにな川もまた、ハツとの出会いを通じて変わっていく。

「オリちゃんに近づいていったあの時に、おれ、あの人を今までで一番遠く感じた」。

オリチャンオタクであるにな川の転換点は、表層的にはこのセリフになっています。

しかし、よく考えてみると、にな川はもっと前、ハツと出会ったときから変わっていったのです。

これまで偶像でしかなかった「オリチャン」と実際に出会い、会話した人物。

にな川のオリチャン信仰が崩れ去ったのは、物語終盤ではなく冒頭です。

だからこそ、にな川はオリチャンに、ようやく会いに行ったのです。

芸歴が長く、既に27歳のオリチャン。

ライブなんかいくらでもあったはずなのに、にな川はこれまで行かなかった。

信仰の対象に実際に会ってしまうのが怖かった、だから膜を張っていた。

それを、ハツがあっさり破ってしまうのがこの物語の冒頭なのです。

そして同時に、にな川は、おそらく初めて、本物の異性と「出会い」ます。

単なる風景としてのクラスメイトではなく、自分に意味のある言葉を投げかける存在。

にな川の心中たるや、相当のものでしょう。

そんな時、内向的な人間はどうするのか。

思わず、自分の得意分野で喋ってしまうのです。

心を閉ざしていたにな川視点でこの物語を冒頭から読むと、そこでもまた切ない気持ちが高まります。

ハツが誘われるがままににな川の家に行く、ハツのキスシーン、ライブに行く唐突さ。

このあたりのご都合主義がちょっとだけ「あれ」となってしまったので星は四つにしましたが、それらを除けば、間違いなく最高傑作の部類です。

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