小説 「夏と花火と私の死体」 乙一 星3つ

夏と花火と私の死体
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1. 夏と花火と私の死体

山白朝子、中田永一名義でも有名な乙一さんのデビュー作。

16歳でこのストーリーを書ききるのはまさに衝撃だといえるでしょう。稚拙なところも多いように感じられましたが、才気溢れる作品です。

2. あらすじ

九歳の夏、「わたし」は友達の弥生ちゃんに木から突き落とされて殺される。弥生ちゃんが「わたし」を殺したことの発覚を避けるべく、弥生ちゃんとその兄である健くんは森にある溝に「わたし」を隠す。

しかし、間もなく警察の捜査が始まると、森の中は発見の危険性が高いと分かる。健くんは「わたし」を担ぎ、ひとまず自宅に「わたし」を隠すことにした。

果たして、幼い二人の兄妹は殺人の罪から逃れることができるのだろうか......。

3. 感想

面白い作品でした。幼い兄妹が大人たちにバレないよう「わたし」の死体をどう処分するかという設定は斬新で、怪談にはもってこいの田舎らしい風景が恐怖をさらに煽ります。

また、小説の技法として特筆するべき点もあります。それは、「一人称神視点」とでも呼ぶべき文体です。

本作品は一貫して死体となった「わたし」の一人称で語られるのですが、「わたし」の視界による描写範囲の制限はなく、まるで空中から見ているように起こったことが全て書かれます。加えて、弥生ちゃんや健くんをはじめ、あらゆる人物の心理も、「わたし」にはすべて分かっているという前提で書かれます。

つまり、生きている人間としての「わたし」ではなく、既に亡くなり、超常的な存在となって天から人間たちを見る視点で書かれるのです。

「健くんは〇〇と思いながら、わたしの死体を持ち上げた」

という具合にです。

死体の「目線」から死体が語るからこそ可能な描写をするというのはあまりない手法なのではないでしょうか。それだけでも著者の才能が分かるというものです。

ただ、欠点もあります。台詞があまりにも舞台演技のような語尾になっていたり、風景描写の分かりづらさや、極端でステレオタイプな人物造形。また、オチに至る伏線が少し弱く驚きが少ないという点では致命的です。

しかし、人気作家になりゆくことが納得できるデビュー作として、乙一の原点を感じることができるお薦めの作品です。

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