1989年から1992年まで「週刊少年ジャンプ」に連載されていた作品。
ジャンプにおける「ラブコメ枠」作品の中でも真剣な恋愛を描いた作品として異彩を放っており、80年代を代表する「きまぐれオレンジ☆ロード」と2000年代を代表する「いちご100%」が専らコメディ寄りの作風であるのとは対照的です。
1980年代の「ラブコメ枠」といえば、本作に加えて同じく桂正和氏が作者の「I's」であり、シリアス寄りの作風が一世を風靡した時代だったと言えるでしょう。
失恋した高校生男子の前に、純粋な心の持ち主にしか見えない「GOKURAKU」という名前のビデオショップが現れる。
そこで借りたビデオから飛び出してきた少女と紡がれる物語は「勇気」と「優しさ」に纏わる苦悩と葛藤に満ちており、繊細な魅力に溢れています。
あらすじ
主人公の弄内洋太(もてうち ようた)は私立貫大高校に通う高校1年生。
同級生の美少女である早川もえみ(はやかわ もえみ)に片想いしているものの、彼女が好意を寄せる相手は洋太の友人である新舞貴志(にいまい たかし)であり、洋太の想いはあっさりと散ってしまう。
失恋の心痛を引きずる洋太、そんな彼の前に突如、見慣れぬビデオショップが現れる。
「GOKURAKU」という店名のビデオショップに入店した洋太は、吸い込まれるようにアダルトコーナーへ向かい、そこで「なぐさめてあげる♡天野あい」というタイトルのビデオを手にするのだった。
帰宅した洋太はビデオを視聴するのだが、ビデオの中の少女は洋太に優しい言葉をかけると、なんとテレビ画面から飛び出してきたので洋太は大混乱。
「やさしく清楚なあいちゃんは心ときめく16歳」
パッケージに書かれていた、そんな言葉通りの美少女であることを期待していた洋太。
しかし、テレビ画面から出てきた少女はガサツな女の子で......。
恋に悩み、夢に惑い、そして成長していく少年少女たちの物語。
感想
少年誌のラブコメだけあって露骨なパンチラシーンが多く、女性の身体つきは着衣状態でも過度なほどその曲線が強調されて描かれます、
しかし、そんな外見に騙されてはいけません。
主人公がやたらとモテてしまうハーレム展開が主軸ではあるのですが、登場人物それぞれの心理的な機微が濃やかに描かれており、当時において「本格恋愛漫画」との書評さえあったことに納得できる作品になっております。
特にヒロインである天野あいについての設定が巧妙で、物語に良い意味での緊張感と説得性を与えています。
というのも、天野あいが出演している特製アダルトビデオは本来において男性を都合よく慰めるための代物であり、画面から飛び出してくる美少女はどこまでも従順かつ性に積極的な存在として男性に奉仕するよう「設定」されております。
しかし、再生したビデオデッキが壊れていたため、お転婆で料理も下手、胸も小さいという「バグった」少女として天野あいは登場するのです。
とはいえ、男性を慰めるために生み出された「電影少女」としての特性を幾ばくかは残しており、そのうち、本作で物語を動かすのは「人の良いところを見つけるのが得意」という特性。
この能力によって洋太は励まされ、一皮むけた存在として女性にモテ始めるのです。
もちろん、ご都合主義的なハーレム展開もあるのですが、洋太自身がそのハーレムぶりを自覚しつつ、Aさんに優しくされたらAさんに靡き、Bさんに優しくされたらBさんに靡く、という自分の優柔不断ぶりに自己嫌悪する描写があるのは評価できる点でしょう。
凡百のくだらないラブコメとは一線を画す、本格恋愛漫画の側面だといえます。
本当の「愛」を知らない人間ばかりになってしまった世の中で、洋太は珍しく純粋(ピュア)さをその胸に残している、だからこそ「GOKURAKU」が目の前に現れた。
洋太には他の少年にはない「ピュア」さがあるのだ、だから「GOKURAKU」に選ばれたのだ、という前提条件を最初に示しておくからこそ、恋情のもつれに思い悩む洋太の姿にキャラクターの一貫性が見い出すことができ、作品の説得力を増しています。
そして、何より本作を面白くしているのは、憧れだったもえみちゃんと付き合うことができた洋太が、自分が本当に恋をしているのは天野あいなのだということを自覚していく展開です。
いかにも「女の子らしい」ヒロインとして描かれる早川もえみですが、洋太はそんな彼女とのぎこちない「恋愛」の中にあるのは本当の「愛」ではないと気付いていくのです。
「恋に恋する」から脱していく、というわけですね。
ドタバタ劇を演じながらも自分の成長を促してくれた、気の置けない相手である天野あい。
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