【メディア論】おすすめメディア論雑記3選【雑記まとめ】
☆☆☆(小説)
「涼宮ハルヒの消失」谷川流 評価:3点|素敵な非日常をもたらす存在、それを肯定することの尊さを描くシリーズ屈指の人気作【ライトノベル】
著名なライトノベルシリーズである「涼宮ハルヒ」シリーズですが、既刊12巻の中でも本作は非常に評価が高く、ファンの中でも本作をシリーズの最高傑作に挙げる人が多い印象です。個人的には第1巻「涼宮ハルヒの憂鬱」を第1位に推したいのですが(おそらくファンの中では第1巻を最高傑作に挙げる人が第4巻を最高傑作として挙げる人に次いで多いのではないかと思います)、本作も手堅い面白さがあり、特に主人公が第1巻冒頭で持っていた価値観が明示的に180度転換する描写があることから第1期完結作として本作を扱うこともできるでしょう。実際、本作による盛り上がりを最後に「涼宮ハルヒ」シリーズの面白さが減衰していってしまうのが辛いところです。また、本作はアニメ映画化もされており、そちらもアニメファンから高い評価を得ています。162分という長尺の映画なのですが、原作に忠実な展開が美麗な作画と意欲的な演出によってさらに面白く描かれており、映画が原作を超えた稀有な例であると言っても反発は少ないと思います。それでは、そんな本作のあらすじと感想を述べていくことにいたしましょう。なお、第1巻及び前作(第3巻)の感想はこちらです。あ...
「氷点」三浦綾子 評価:3点|「汝の敵を愛せよ」ならば、娘を殺した犯人の子供を引き取ってみせる【古典純文学】
キリスト教文学の名手である三浦綾子さんのデビュー作にして代表作。1963年に朝日新聞社が開催した、賞金1000万円の懸賞小説にて見事当選を果たした作品です。現在よりも遥かに物価の低い1963年に賞金1000万円の賞を獲った作品ということで、非常に注目を浴びました。圧倒的な前評判を背負って出版された本作でしたが、期待を裏切ることはありませんでした。素晴らしい売り上げを見せつけた末に何度もドラマ化され、大人気番組となる「笑点」のタイトルも本作から取られるなど、当時の国民的ベストセラーとなります。そんな作品を令和の今日なって読んでみた感想ですが、サスペンス的なエンタメ性を備えつつも、テーマである「人間の原罪」について巧妙な掘り下げが為されている作品であると感じました。旧い作品にありがちな冗長性は否めませんが、おそらく唯一無二であろう優れた設定と、そこから展開される痛切で悲哀に溢れる物語の様相が光ります。まさに「氷点」を感じるような、冬の夜長にお薦めの作品です。あらすじ旭川にある辻口病院の病院長、辻口啓造(つじぐち けいぞう)が主人公。妻の夏枝(なつえ)と長男徹(とおる)、長女ルリ子(るりこ)...
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】
「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。あらすじバグダッドから陸路でロンドンで帰る途中、ジョーン・スカ...
「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティ 評価:3点|真冬の国際寝台列車で起こる静謐で哀切な殺人事件【海外ミステリ小説】
「ミステリの女王」という異名を持つ稀代のミステリ作家、アガサ・クリスティの作品。「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「アクロイド殺し」等に並ぶクリスティの代表作として知られており、1934年の作品ながら、今日においても版を重ねている歴史的ベストセラーとなっております。日本語の新訳版も2017年に出版されており、国内においても人気の高い小説です。個人的な感想としても、ミステリ小説として十分に楽しめる作品であり、また、世界各国の富豪が乗り合わせる1930年代の国際寝台列車という独特な雰囲気も味わい深いものでした。あらすじ舞台は真冬の欧州を走る国際寝台列車オリエント急行の車内。ロンドンへ移動するため、名探偵エルキュール・ポワロはイスタンブール発カレー行の列車に乗車していた。しかし、猛吹雪に飲まれた列車はヴィコンツィ(クロアチア)とブロド(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)のあいだで立ち往生してしまう。不安と焦燥に包み込まれる車内、そして事件は起こる。サミュエル・ラチェットというアメリカ人実業家が刺殺された姿で発見されたのだ。ポアロは乗り合わせた乗客たちを一人一人呼び出し、尋問にかける。相矛...
「いちご同盟」三田誠広 評価:3点|思春期の繊細な心情とその成長を描いた病室ボーイ・ミーツ・ガール【青春純文学】
1990年に出版された小説で、芥川賞作家である三田誠広さんの代表作でもあります。中学校の国語教科書に掲載されていたほか、集英社のナツイチ(夏の100冊)にも長らく選ばれ続けていたので、タイトルをご存じの方も多いでしょう。近年でも大人気漫画「四月は君の嘘」の作中でオマージュされるなど、長年にわたり根強い人気を誇り、様々な作家に影響を与えている作品となっております。都市郊外に居住する核家族的な生活感が日本の文化的メインストリームとして定着し、そのうえ、熾烈な受験戦争で生徒たちの精神がすり減らされていた1980年代。そんな時代に、自殺という選択肢に対して仄かな憧れを抱く少年と、不治の病で入院しており、死期が近い少女との、ひと夏の淡く切ない交流を描くという内容の小説。長期入院している少女と、身体は健康だが心に悩みを抱える少年のボーイ・ミーツ・ガールという「病室もの」的なジャンルを開拓した小説でもあります。勉強、スポーツ、生きるということ、死ぬということ、人生とは何か。よく言えば普遍的、悪く言えば平凡な要素がテーマとなっており、物語構成としても奇をてらわない内容の物語であるにも関わらず、本作独自...
「塩狩峠」三浦綾子 評価:3点|清く正しいキリスト教文学【純文学】
キリスト教文学の名手として時代の寵児となった三浦綾子さんの作品。彼女の作品としては「氷点」と並ぶ代表作として知られています。全体的にやや説教くさい部分があり、善人のキリスト教徒ばかりが出てくるという点は鼻持ちならないですが、キリスト教の教義を基盤とした印象的なフレーズも多く、心に残る純文学作品ではありました。あらすじ明治42年、名寄駅から札幌駅へと向かう汽車でトラブルが起こる。険しく急峻な塩狩峠に差し掛かった際、汽車の連結部が外れ、車両は急坂を猛烈な勢いで後退し始めたのだ。このままでは乗客全員の命が危ない。そんなとき、客車を飛び出してデッキに向かった男がいた。彼の名前は永野信夫(ながの のぶお)。デッキに備え付けのハンドブレーキを回す信夫だが、汽車の勢いは緩まったものの止まることはない。ここまで速度が落ちたのならば、あとは何らかの障害物があれば止まってくれるだろう。そう考えた信夫はデッキからレールへとその身を投げたのだった。あまりに高潔な死を遂げた永野信夫。この青年の立派な人格はいかにして陶冶されたのだろうか。いたいけなほど純粋な信仰の物語は、彼が幼少の頃から始まる......。感想キ...
【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】
現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。あらすじ舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラスティ・サビッチ主席検事補を捜査の担当とする。意気揚々と捜査に当たるラスティだが、あ...
【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ
1. 車輪の下ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。だからこそよく売れているのだと思います。そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。2. あらすじ田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。しかし、神学校で待っていたのはいままで以上に鬱屈な勉強漬けの日々。そんなハンスが神学校で出会ったのは、ヘルマン・ハイルナーという少年。...
「こころ」夏目漱石 評価:3点|若き日の恋愛譚を題材に世代間の価値観相克を描いたベストセラー小説【古典純文学】
日本文学を代表する作家、夏目漱石のそのまた代表作といってもよいでしょう。長年の高校教科書掲載作品としても有名で、書籍を手に取って読んでみたことがないという人でも教科書掲載部分の内容くらいはなんとなく覚えているのではないでしょうか。また、累計発行部数は700万部を超えており、日本で最も売れている小説であることから、書籍として手に取り通読したことがあるという人もそれなりにいるのだと思います。そんな本書は恋愛の三角関係が物語後半の枢要を占めることもあり、殊更に恋愛小説面を強調したプロモーションがかけられることも多いように感じられます。しかし、本書の主題は「時代の趨勢と人々の『こころ』」であり、漱石自身もそれを意識して書いたという解釈が通説となっております。派手なアクションシーンや意外などんでん返しなどがあるわけではなく、ぐいぐい感情を揺さぶられるというわけではありませんが、手堅い面白さのある作品です。あらすじ東京帝国大学の学生である「私」は夏休みに訪れていた鎌倉の海岸で「先生」と出会う。ひょんなことから「先生」との交流を始めた「私」だったが、「先生」にはどこか謎めいたところがあり「私」には「...
小説 「時をかける少女」 筒井康隆 星3つ
1. 時をかける少女1967年刊行ながら夥しい数のメディアミックスによって今日においても有名タイトルとなっている作品。その中でも、1983年に原田知世さん主演で公開された実写版と、2006年に細田守監督の指揮によって製作されたアニメ版という二つの映画が知名度の牽引役となっております。アニメ映画は本ブログでも以前に感想を書きました。原作たる小説は僅か100ページ余りの作品であり、文体や展開も非常にあっさりとしたものでしたが、ここが斬新だったのだろうと思わせる点がいくつかあり、派生作品がいくつもある現代だからこその読み応えがありました。2. あらすじある日、中学3年生の芳山和子(よしやま かずこ)は、同級生の深町一夫(ふかまち かずお)・浅倉吾朗(あさくら ごろう)と一緒に理科室の掃除をしていた。掃除を終え、隣の理科実験室に用具をしまおうとすると、理科実験室から奇妙な物音が聞こえてくることに和子は気づく。恐る恐る理科実験室の扉を開ける和子。しかし、和子が明けた瞬間に中にいた人物は別の扉から逃亡したようで、残っていたのは液体の入った試験管だけ。しかも、試験管の一つは割れて液体が床にこぼれてい...
小説 「細雪」 谷崎潤一郎 星3つ
1. 細雪戦前から戦後にかけて活躍した小説家、谷崎潤一郎。いまなお評価が高く、ファンの多い彼の代表作ともいえる作品が「細雪」です。新潮文庫版は上中下巻の構成で出版されておりまして、執筆に4年を費やしたという大作。映画化3回、テレビドラマ化6回という数字が文学の古典ながら世俗にも通じる魅力をもった作品であることを表していますね。やや冗長な表現や本筋から外れたエピソードなどが多いながら、やはり読みごたえのある作品だったというのが感想です。もちろん、そういった冗長さや寄り道部分を評価する人もいるでしょうから、私の星3つという評価が低すぎると感じる人はいても高すぎると思う人は少ないのではないのでしょうか。凋落しつつある旧家の娘が結婚相手を探すというストーリーは婚活全盛の今日においてむしろ示唆的ですらありますし、人物の描かれ方の今日との対比という点でも深く読み込んでいける作品だと感じました。2. あらすじ(上巻)時代は1930年代、蒔岡家の次女幸子は芦屋に暮らしていた。同居するのは夫であり婿養子でもある貞之助と、一人娘の悦子、そして蒔岡家の三女である雪子に、四女の妙子。幸子の祖父の代には大阪の船...
「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス 評価:3点|特別な手術を受けた知的障害者が直面する知性の幸福と傲慢の悲哀【古典SF小説】
アメリカのSF作家、ダニエル・キイスの作品で、1959年に中編として、そして1966年には長編に書き直されて発表されています。ネビュラ賞とヒューゴー賞という権威ある賞を受賞しており、日本でも2015年に新版が出るなど、定評ある古典として読まれ続けています。感想としては、「手堅い名作」という印象。斬新な設定で唯一無二の地位を確立しており、特殊な題材ながら人を選ばない筆致には素晴らしいものがあります。一方で、これほど突飛な設定ながらあと一押しとなるようなどんでん返しなどがないところはやや肩透かしでありました。あらすじチャーリィ・ゴードンは知的障がい者で、ビークマン大学知的障がい者成人センターに通いながらパン屋で下働きをしている。読み書きも碌にできない彼だったが、ある日、ビークマン大学の二―マー教授とストラウス博士からある実験への協力を求められる。それは、チャーリィの知能を劇的に高める手術のドナーになって欲しいというものだった。賢くなりたい、賢くなればもっとみんなの期待に応え、仲良くなれるはずだと考えていたチャーリィ。もちろん、彼はこの依頼を快諾する。手術を受けた彼はゆっくりとしか進まない知...
「絵草紙 源氏物語」田辺聖子 評価:3点|美貌の貴公子に篭絡されていく女性たちを描いた平安女流文学【古典文学】
芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の耽美な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。あらすじ帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。その息子の名前は光源氏。世の人が賛美するほど美しい青年に育った源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨へと忍び込む......。感想古文の授業では文法を理解する必要があって小難しい印象がある作品ですが、小説家が現代語訳しただけあって、本書はさらさらと読みやすく楽しめる商品になっております。いかにも「平安時代」な挿絵もふんだんに収録されており、時代の雰囲気を味わうことができます。ライトノベル感覚で...