実用書 「原価計算の本質と実務がわかる本」 関浩一郎 星3つ

原価計算の本質と実務がわかる本
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1. 原価計算の本質と実務がわかる本

主に製造業をターゲットとし、原価計算のスタンダードな手法を紹介する実用書。「本質と実務」というタイトルの通り、「なぜその方法が良いとされているのか」を逐一記述しているところが優れています。

簿記2級以上を取得しようと考えている方に、工業簿記の勉強と平行して是非、読んで頂きたい本です。

2. 目次

本書の目次は以下の通り。

序章 本書のねらい
第1章  原価計算の目的と原価計算基準
第2章  原価計算の要素
第3章  原価の製品別計算:実際原価計算
第4章  標準原価計算
第5章  新しい原価計算の視点

3. 感想

簿記における「工業簿記」の部分を扱った内容で、いまから簿記2級を勉強しようという人や、簿記2級、あるいは1級に合格しているものの、深く内容を理解せず、型通りに計算すればよいという暗記科目的な方法で切り抜けてしまった人にはうってつけの本であると思います。

というのも、簿記2級のテキストを勉強し始めると、工業簿記の分野ではいきなり「標準原価」や「~差異」という言葉が乱発され始め、結局のところ、なぜ標準原価が設定されていたり、標準原価と実際原価の差を所定の方式で分析しなければならないのかが分からずじまいになってしまいがちです。特に暗記一辺倒の場合、製造間接費差異の分析に苦労した人は多いのではないでしょうか。テキストは「~することになっている」というように「所定の方法」を頭ごなしに紹介するだけで、そもそも(特に製造業において)なぜそれが良い方式とされ、現場で用いられているのかという演繹的な理論が欠落している場合が多いです。直接費や間接費の科目も、試験では所定の科目が与えられますが、そもそもの部分で、そういった分類が正当化されている理由を少しでも解き明かそうとする「試験対策向けテキスト」は存在しないでしょう、

もちろん、それでテストには合格してしまうのですから、資格本としては正解なのかもしれません。しかし、いざ実際に製造現場に経理や原価管理の担当者として関わったりする場合、最も一般的な原価計算方法の背景となる考え方を理解しておかなければ、現場ごとの特色に合わせて方法を微修正したりできませんし、そもそも、既に採用されている現場特有の方法が原則的な方法からどう離れているのか、それは良いことなのかどうかを判断できません。また、より発展的な方法がどこかから紹介されたときに、現方法がどのような部分に気配りをしていて、どのような部分を疎かにしているのかを整理できていなければ、まともな比較ができないでしょう。本書は原則的な方法を(その原則の背景とともに)説明したあと、「しかしこの場合は……」が繰り返されて現場でありがちな微妙な悩みに答えていくようになっており、人間の思考の流れに沿った内容になっているところが読みやすさを増しているうえ、自分の持っている現場はこの類型なのだろうということが容易にくみ取れるようになっています。

特に争点となるような内容が書いてあるわけでもないので、いつものようにくどくどと書くこともないのですが、公認会計士として経験豊富な著者が(きっと持っているであろう高レベルな論点についての持論を抑制しつつ)こうした「当り前がなぜ当たり前とされているのか」という記述に多くを割く本が出回るのは良いことだと思います。高次元の議論をすることも大切ですが、議論の土俵に上手く多くの人々を乗せられるか否かがその業界の発展に強く寄与していることも間違いないでしょう。小説の感想で、「一部のマニア/オタク受けを狙っていないか」「普遍性があるか」「本を読んでいない人々も含めた一般的な感覚に訴求するか」について私がよく言及するのはそのためです。

原価計算(工業簿記)についてはまず本書を通読しておけば基礎的な理解が身につくでしょう。お勧めです。

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