小説 「今夜、きみは火星にもどる」 小嶋陽太郎 星1つ

今夜、きみは火星にもどる
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1. 今夜、きみは火星にもどる

万城目学さんなどを輩出したボイルドエッグズ新人賞を受賞してデビューした小嶋陽太郎さんの作品。デビュー当時は大学生だったそうで、文体もまだまだ若いです。

しかし、作品の内容は若いというより未熟。不思議な世界観で巻き起こるちょっと文学的な何かを目指したのかもしれませんが、全体として拙い印象を受けました。

2. あらすじ

期末テストの数学でまさかの0点をとってしまった高校生の「僕」。夏休みは補習として毎日学校に通うことになってしまう。そんな「僕」と同じく補習を受けているのは同級生の佐伯さん。佐伯さんは「私、火星人なの」と言って憚らない生徒で、クラスでも浮いていた。

しかし、「僕」が恋に落ちたのはほかならぬその佐伯さん。佐伯さんは火星人であると頑なに信じる「僕」は、ついに補習中まで火星での生活の夢を見てしまうようになる。

夢の中で、そして現実でも、佐伯さんとの距離を縮めていく「僕」。そんなとき、佐伯さんが転校するという話を「僕」は聞きつける。彼女が火星に帰るのは18歳の誕生日のはずで、あまりにも早すぎる。急激に迫ってきた別れの瞬間に「僕」がとった行動とは、そして、佐伯さんの「火星」とは。

浮ついていて、悩ましい、高校生の夏休み。

3. 感想

全体にまどろっこしい展開が続きます。もちろん、小説なので終わりに向かう何らかの意図をもって書かれているというのは読書中も意識しますが、それにしてもただ「終わりを引き立たせるためにこの場面を書いているんだろうな」としか思えないダラダラとした流れが続きすぎです。一場面、一場面が楽しいという箇所がほとんどなく、「僕」のよくわからない日常描写が過剰に描かれるだけです。そこには夢に見る火星の日常も含まれるのですが、それもワクワクするものや心に訴えかけてくるものではありません。

そして、物語の核となる「佐伯さんは宇宙人なのか否か」という謎が解き明かされる終盤ですが、ううん、このオチは厳しい。確かに、アイデンティティに悩んで奇怪な行動に走ってしまう高校生の心理は普遍的なテーマであり、青春小説に欠かせない要素です。しかし、それそのものをオチに持ってきてしまっては拍子抜けしてしまいます。「信頼できない語り手」といえばそうなのでしょうが、自分の心をごまかしながら生きていく自らの稚拙さに、最終的に主人公や佐伯さんがどう向き合うのかという点が薄すぎます。

火星人である、数学でゼロ点をとる、そんな「変わり者」であるとうそぶいてしまう人間心理の弱さ。それが露呈するのが最終盤であり、そこで物語が終わってしまっては、小説家としての技量はないといっていいでしょう。このオチは中盤であるべきもので、そこから「僕」や佐伯さんがその心をどう克服していくかが見たかったものです。

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