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教養書 「都市農地はこう変わる」 倉橋隆行 星2つ

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都市農地はこう変わる
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1. 都市農地はこう変わる

もともと住宅・土地問題に関心があるのですが、その界隈で「生産緑地」問題が浮上し始めてきたことから手に取った本です。「生産緑地」で適当に検索して購入したのであまり期待はしていなかったのですが、まぁ、そのたいしたことない期待の程度だったという感想。

著者が不動産コンサルということもあり、学術的で客観的な分析と言いうよりは、土地保有者向けの土地活用術の本という雰囲気が濃いものでした。

2. 目次

本書の目次は以下の通り。

第1章 「生産緑地」解除の悲劇
第2章 建物の価値ってなんだ?
第3章 テナント物件投資

3. 感想

今回はこのうち、第1章の序盤に限って感想を述べます。というのも、第1章後半と第2章と第3章は冒頭に書いた不動産コンサル話がメインであるからです。政治学系の専門書ではないこともあって、本書では生産緑地について基礎から解説されています。

生産緑地法そのものは1974年に公布された法律であり、都市計画法上、土地や森林が「生産緑地」の指定を受けると、固定資産税の評価が農地並みとなり、事実上、大幅な減税を受けられることになりました。これにより、都市計画法の指定区域内に土地を保有する農家の多くが生産緑地の指定を受けます。

この法律が公布された背景には、当時、急速に進んでいた都市化がありました。

急速な住宅建設と並行して都市から緑地が失われていき、地盤保持や保水機能、景観が損なわれることが懸念されたのです。しかし、1991年に、別の制度である長期営農継続農地制度が廃止される段になって、その補償のような意味合いで生産緑地制度が1992年に改正されます。

長期営農継続農地制度は、一定以上の規模の農地で10年間営農することが適当と認められた土地の宅地並み課税を猶予する制度でしたが、都市における住宅供給が不足するにつれ、この制度を廃止して農地を宅地に変えるインセンティブを高めようという動きが強まっていました。

その動きに反発した農家に対応するためになされたのが1992年の生産緑地制度改正です。生産緑地の指定条件を緩和し、営農を継続することで、課税を引き続き猶予されたのです。そして、この生産緑地の解除条件は、疾病や障害、死亡等で営農不可能になった時を除けば指定後30年が経過したとき。つまり、2022年に1992年指定の生産緑地の指定が一斉に解除されるのです。

その結果、まず影響が出るのは都市部における宅地供給です。都市部の優良地に点在する生産緑地の指定が解除されれば、その土地を農地として維持するメリットはなくなります。

また、生産緑地を保有している農家の側には土地を積極的に売り出すインセンティブもあります。生産緑地では、相続の際に相続税が猶予されるのですが、あくまで猶予されるだけ。土地を相続していた場合、解除の暁には相続税と利子税が降りかかり、現金をすぐに用意する必要が生じます。

本書では土地の一部を切り売りしたりする対策が推奨されているのですが、そういった対策が採られる場合、2022年に土地はすぐ市場に売り出されることになります。

その結果、2022年に、一斉に優良土地が土地市場になだれこむことになります。

著者が述べる不動産活用の面からの解説は割愛いたしますが、こういった現象が起こることにより、都市中心部へのさらなる人口集中、周辺の「そこそこ」の地域からの人口吸収がおこり、被吸収地域の地価はさらに下がるでしょう。

生産緑地もなくなっていくため、住宅のみが立ち並ぶ「魅力ある」地域と、棄てられた土地にわずかな人口が居住する「魅力なき」地域の格差がさらに広がることが懸念されます。

賢い縮小、などという言葉が叫ばれる今日において、暮らしやすさや、俗な言葉でいうところの「調和」を上手く成し遂げることができるのか、生産緑地の解除はここにさらなる課題を投げかけることでしょう。

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