2020-12

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谷川流

「涼宮ハルヒの直観」谷川流 評価:1点|9年半ぶりに出版されたシリーズ最新作は深い失望を伴うミステリ風の駄作【ライトノベル】

ライトノベル界隈において、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズは2000年代(ゼロ年代)を代表する伝説のビッグタイトルとして知られています。その9年半ぶりの新刊が本作、「涼宮ハルヒの直観」です。前作までの僅か11作品で累計2000万部以上の発行部数を誇り、恐らく、1巻当たりの発行部数では全ライトノベルNo.1でしょう。2006年にアニメ化された際には社会現象にもなり、90年代の「新世紀エヴァンゲリオン」と対比されながら、「エヴァ世代」「ハルヒ世代」と区分されることもあるほどの影響をサブカルチャー界隈にもたらしました。まさに時代/世代を代表する作品なのです。そんなシリーズの、文字通り満を持して発売された本作ですが、正直のところ、内容はかなり肩透かしであり、失望いたしました。語るのも悔しい作品ですが、読了したからには感想を書きたいと思います。収録作品・あてずっぽナンバーズ(p3-35)・七不思議オーバータイム(p36-127)・鶴屋さんの挑戦(p128-411)あらすじ(唯一の長編作品である「鶴屋さんの挑戦」のあらすじです)夏もほど近い、新緑の季節。いつも通り部室でたむろするSOS団のもとに一通の...
ミヒャエル・エンデ

【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】

ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。あらすじ舞台はローマのようでローマではない街。主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ばれており、モモも人の輪の中で幸せに暮らしていた。そんなある日、街に灰色の男たちが現...
ジョゼと虎と魚たち

「ジョゼと虎と魚たち」タムラコータロー 評価:1点|名作邦画のリメイクアニメは非常に残念な凡庸恋愛映画【アニメ映画】

2020年12月25日に公開されたアニメーション作品。1984年に著された田辺聖子さんの短編小説が原作で、映画通のあいだでは2003年の実写映画版が名作として知られているようです。とはいえ、印象的なベッドシーンやヒロインが抱える障がいに独特の焦点を当てたことで評判になった実写版とは異なり、アニメ映画はクリスマスに相応しい清らかな純愛ものに仕上がっています。加えて、主人公とヒロインの声を俳優の中川大志さんと清原果耶さんが務め、お笑い芸人である「見取り図」の二人もチョイ役で参加しているところからも、大衆受けを狙ったのだろうなという感じは拭えません。そして、そういった大衆受け純愛路線が結果的に奏功していたかと問われれば、かなり失敗していたのではないかと感じました。著しく退屈というわけではないけれども、どうにも底の浅い凡庸な映画に仕上がってしまっていたというのが感想の大枠です。あらすじ主人公は男子大学生の恒夫つねお。大学では海洋生物学を専攻しており、趣味は海に潜ること。メキシコ留学に向けた資金を貯めるため、ダイビングショップでのアルバイトにも励んでいる。そんな恒夫がダイビングショップから帰る途...
生き方・自己啓発

「幸福論」バートランド・ラッセル 評価:3点|様々な自己啓発本の種本になっている「幸福」についての古典的佳作【生き方】

数学、論理学、哲学、そして文学の世界で多大な功績を残したイギリスの学者、バートランド・ラッセルの著作。1950年のノーベル文学賞を受賞するほどの文筆家であったラッセルが著す「幸福論」は、ヒルティ及びアランの「幸福論」と並ぶ三大幸福論の一つとして知られています。その内容は、この「幸福論」こそが様々な自己啓発論の源流になっているのだなと思わせられるものでした。目新しくはないものの、現代でも様々な本で言及される「人生を幸福に生きるコツ」の最大公約数が網羅されており、やや難解な英文翻訳調の文章に対して抵抗がなければ、安っぽい自己啓発書を読むよりも本書を一読する方が良いと思われます。また、賢者の誉れ高いラッセルらしく、自己啓発の域を超えた社会論的な側面も記述されています。ラッセルという賢人が世の中をどのように見ていたのか、世の中がどのように変化していくと考えていたのかという思索を覗き見られるという利点も備えた作品になっております。目次・第1部 不幸の原因第1章 何が人びとを不幸にするのか第2章 バイロン風の不幸第3章 競争第4章 退屈と興奮第5章 疲れ第6章 ねたみ第7章 罪の意識第8章 被害妄...
ヘルマン・ヘッセ

【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ

1. 車輪の下ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。だからこそよく売れているのだと思います。そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。2. あらすじ田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。しかし、神学校で待っていたのはいままで以上に鬱屈な勉強漬けの日々。そんなハンスが神学校で出会ったのは、ヘルマン・ハイルナーという少年。...
いまを生きる

「いまを生きる」ピーター・ウィアー 評価:4点|型破りな教師が示す自分らしい人生のつくりかた【アメリカ映画】

1989年のアメリカ映画で、第62回アカデミー賞で脚本賞を受賞した作品でもあります。厳格な進学校に赴任してきた型破りな教師の授業から、生徒たちが「人はどう生きるべきか」の本質を学び、実践していくという内容。テーマの普遍性から今日でも人気の衰えない作品であり、元サッカー日本代表で現在はJ1ガンバ大阪の監督を務めている宮本恒靖さんが座右の銘に「いまを生きる」を採用するなど、まさに多くの人々の生き方に影響を与えた作品になっております。いまとなっては古典となった本作をこの令和の時代に鑑賞してみたのですが、やはり感動はひとしおでした。規則や形式に囚われず、物事を様々な側面から捉え、なにより自分のやりたいことを大切にしながら生きる。そんなメッセージが激動のドラマ的展開によって鮮烈に表現された、まさに「映画」の見本となるような作品です。あらすじ舞台は全寮制の名門進学校ウェルトン・アカデミー。「伝統」「名誉」「規律」「美徳」の四柱をモットーとする厳格なこの学校に、一人の英語教師が赴任してくる。彼の名前はジョン・キーティング。型に嵌った受験勉強対策授業ばかりが行われているウェルトンにおいて、キーティング...
ママレード・ボーイ

【青春恋愛】漫画 「ママレード・ボーイ」 吉住渉 星1つ

1. ママレード・ボーイ1990年代、毎月250万部近い発行部数を誇っていた全盛期の「りぼん」で看板級の人気を持っていた少女漫画。累計発行部数は1000万部以上、アニメ化及びドラマ化も果たしており、時代を代表した作品の一つだと言えるでしょう。しかしながら、個人的な感想としては凡作を下回って駄作という印象。物語として感動するポイントが全く見当たらず、やっつけ仕事のような展開ばかりが繰り返される光景に辟易としながらなんとか読み切った次第です。2. あらすじ主人公は女子高生の小石川光希(こいしがわ みき)。ある日、両親である小石川仁(じん)と小石川留美(るみ)から、離婚してそれぞれが新しいパートナーと結婚するつもりなのだと告げられる。その新しいパートナーというのも、松浦要士(まつうら ようじ)と松浦千弥子(ちやこ)という夫婦。いわば、小石川夫婦と松浦夫婦でパートナーを取り換えるという話なのである。しかも、新しい家族同士で同居したいとまで言うのだから、光希の頭は大混乱。あまりに無茶苦茶な両親の行動に対して断固反対の立場をとる光希だったが、松浦夫妻の息子である松浦遊(ゆう)はどこ吹く風。なし崩し...
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