2018-01

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小川洋子

小説 「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子 星2つ

1. 猫を抱いて象と泳ぐ不思議な世界観と優しく繊細な文体で人気を博す純文学作家、小川洋子さんの作品。小川さんの個性が前面に押し出されており、ファンの間で評価が高いことも頷けます。しかし、そこが却って普遍性を損なっているような、万民への説得力に欠けているような作品だったと思います。2. あらすじ生まれつき唇の上下がくっついていたために、手術により切開し、脛の皮膚を唇に移植した少年。そのため、少年の唇には成長と共に産毛が生えてくるようになってきていた。学校にも上手く馴染めない少年を惹きつけたのはチェスという競技。廃バスの中で生活するマスターにチェスを教わり、少年はぐんぐんと腕前を上げていく。そんな少年を変えたのはマスターの死だった。肥満しきった不健康な身体でバスの中を狭苦しそうに生活していたマスター。それは、少年が幼少期に出会ったインディラという象を思い出させる。デパートの屋上で見世物となっていたインディラは成長とともに身体が大きくなり、デパートの屋上から降ろすことができなくなってしまっていたのだ。少年は「大きくなること」に絶望し、身体の成長を止めてしまう。それは、チェス盤の下に籠って思考...
☆☆(小説)

小説 「赤と黒」 スタンダール 星2つ

1. 赤と黒フランス人作家、スタンダールの代表作の一つで、サマセット・モームの「世界十六大小説」にも選ばれている作品です。歴史的に評価の高い作品ではありますが、個人的にはあまり楽しめませんでした。特に現代に通じる普遍性の面ではかなり疑問です。とはいえ、時代が変わればまた再評価されるのかもしれません。赤と黒 (上) (新潮文庫)posted with ヨメレバスタンダール 新潮社 1957-02-27AmazonKindle楽天ブックス
☆☆☆(小説)

小説 「1984年」 ジョージ・オーウェル 星3つ

1. 1984年全体主義への警鐘を鳴らす、言わずと知れた有名小説です。不安定な政治状況から近年でもアメリカなどを中心に売り上げを再び伸ばしています。テレスクリーンによる監視や、思考の「幅」を狭める新言語ニュースピーク、「憎悪時間」など、全体主義体制が到る悲惨な政治的状況をこれでもかと描く力の鋭さ・強さにおいては文句のつけようがありませんが、小説としてのストーリーにはやや凡庸な面もあり、評価に迷う作品です。一九八四年 (ハヤカワepi文庫)posted with ヨメレバジョージ・オーウェル 早川書房 2009-07-18AmazonKindle楽天ブックス
桜庭一樹

小説 「荒野」 桜庭一樹 星1つ

1. 荒野もとはファミ通文庫から3冊分冊で出版されていた作品ですが、後に文藝春秋/文春文庫が出版。さらに表紙をリニューアルして再刊行もされています。桜庭一樹さんが一段階有名になるたびに出版されていると言っていいでしょう。ライトノベルというより少女小説と呼んだ方が相応しい読みやすい文体で、星1つをつけるほどの致命的な落ち度はありません。しかし、「少女の繊細な成長」を描くことに終始しすぎたせいでドラマがなく、また、その「少女の繊細な成長」という側面でも、主人公の家庭環境があまりに特殊なことからリアリティを感じられませんでした。荒野 (文春文庫)posted with ヨメレバ桜庭 一樹 文藝春秋 2017-05-10AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
恋愛3次元デビュー

漫画 「恋愛3次元デビュー」 カザマアヤミ 星3つ

1.恋愛3次元デビュー漫画家であるカザマアヤミさんが自身の結婚までの道のりを描いたコミックエッセイです。現在は月刊アクションで「小林さんちのメイドラゴン エルマのOL日記」を連載されています。恋愛慣れしていない人の面白おかしい話としても楽しめますし、それでいて現代が生み出した「恋愛」という概念の可笑しさも示唆する作品。軽い気持ちで一気読みしつつ、これがfunnyの意味で面白いことは良いことなのだろうかと考えさせられます。恋愛3次元デビュー ~30歳オタク漫画家、結婚への道。~posted with ヨメレバカザマ アヤミ 双葉社 2014-05-21AmazonKindle
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」永田カビ 評価:2点|自分に自信がない状態を克服する再生物語【コミックエッセイ】

pixivで連載されていたコミックエッセイの書籍化作品。「寂しさのあまり性体験をしたこともないのにレズ風俗に行く」というセンセーショナルな煽り文句と、その切実な内容のコントラストが魅力です。あらすじ大学中退後、精神的な病気を患い、アルバイトも長く続かなかった著者、永田カビ。親との関係も上手くいかず、頭には「死」がよぎる。「なにくそ、立ち直ってやる」。そう意気込み、息苦しさから自分を解放するために選んだ手段。それはレズビアン風俗に行くことだった。生きづらい現代で自分に自信を持つとはどういうことか。レズ風俗での体験を通じ、著者が自分として生きていく方法を掴んでいく物語。感想共感できる人とできない人が真っ二つに分かれる作品でしょう。真っ二つになる基準は「自分に自信を持っているか否か」です。非常に個人的な観点ですが、現代を生きる人々を敢えて二つに切り分けるならば、その基準として「自分に自信を持っているか否か」を使うのはかなり良いアイデアなのではないかと感じます。そこには、個人の性格とそれを形成してきた家庭や社会の環境が如実に反映され、しかも、自信を持っている人/いない人同士は決して相互に理解し...
トゥーランドット

【トゥーランドット】中国を舞台にした名作オペラの漫画化 評価:2点【里中満智子】

1. トゥーランドット有名なオペラの内容を里中満智子さんが漫画で描く「マンガ名作オペラ」シリーズの第5巻。全巻揃えようという気はないのですが、表題作である「トゥーランドット」の筋書きが知りたくて購入しました。18世紀に書かれた戯曲をもとに19世紀に書かれたオペラということで、いかにも「古典の短編」という印象です。物語全体の整合性や展開の論理性よりも劇的な展開が優先されており、物語としては粗削りで洗練されていないと思われる側面が多かったのですが、オペラとはそういうものだという心持ちで見るのが正解なのでしょう。2. あらすじ舞台は王朝時代の北京。皇女トゥーランドットはたいへん美しい姫だったが、彼女に求婚する者は彼女が出題する3つの問題に答えられなければ死刑になるという過酷な婚姻条件を掲げていた。今日もまた、求婚に失敗したペルシャの王子が紫禁城の前で公開処刑にされてしまう。その様子を見ていたのが、ダッタン国の王子カラム。彼はトゥーランドットに見惚れ、部下の制止を振り切ってトゥーランドットに婚約を申し込む。3つの難問を出題するトゥーランドット。しかし、カラムはいとも簡単に答えてしまう。婚約を嫌...
赤線地帯

「赤線地帯」溝口健二 評価:1点|かつて存在した合法売春地域を舞台に娼婦たちの人生を描く【社会派映画】

1956年公開のモノクロ映画。監督はヴェネツィア国際映画祭で2度のサン・マルコ銀獅子賞に輝いた往年の巨匠、溝口健二さんです。いまはなき「赤線地帯」のリアリティを上手く描いているという点では(とはいえ、私は赤線がなくなった後の生まれなので本当にリアルなのかは分かりませんが)良いと思いましたが、フィクションゆえ、映画ゆえの物語性にあまりにも欠ける作品だと感じました。2. あらすじ物語は吉原(=赤線地帯)のとある売春宿「夢の里」。売春防止法が国会で審議され、赤線地帯の存続が脅かされているなか、今日も「夢の里」では娼婦たちが客の相手をしていた。この時代も娼婦は堅気の商売だとは見なされておらず、彼女たちはそれぞれ、暗い事情を負ってこの場所で働いていた。ハナエには病気で働けない夫と小さな子どもがおり、彼女が家計を支えている。ゆめ子は身体を売りながら女手一つで一人息子を育てたが、その一人息子とは疎遠になっている。やすみは客に結婚詐欺を仕掛けて金を貯め、この生活からの脱出を夢見ている。ミッキーは家出娘であり、親に頼れないために「夢の里」で稼いでいた。そんななか、普通の結婚生活に憧れるより江が堅気の男性...
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