第4位 「サマーゴースト」loundraw 40分
【高校生たちによる生と死に纏わる夏の幻想ホラー冒険譚】
・あらすじ
インターネットを通じて知り合った3人の高校生、友也、あおい、涼。
特定の場所で夏に花火をすると現れるという幽霊「サマーゴースト」を呼び出すため、三人は空港の跡地へと向かう。
滑走路の上で次々と花火を消費していく三人。
やっぱり、単なる都市伝説だったのか。
そう思った矢先、彼らの前に現れたのは絢音と名乗る若い女性の幽霊だった。
「私が見えるのは、死に触れようとしている人だけ」
絢音の発言に、三人は動揺しながらもそれぞれが死を意識している理由を語る。
その後、一度は解散した三人だが、どうしても絢音のことが気になった友也は再び飛行場を訪れるのだった。
「私ね、殺されたの」
殺された絢音の遺体はまだ見つかっておらず、絢音の母親は絢音の帰りをいつまでも待ち続けている。
そんな話を聞いた友也は、絢音の「遺体探し」を手伝うことにしたのだが......。
・短評
幽霊となってしまった女性の「遺体探し」を通じて少年少女が「死」と「人生」の関係を強烈に意識するようになり、自分の人生を自分なりに精一杯生きていくのだ、という決意を固めて再び日常生活に戻っていくという物語。
「ひと夏の経験」ものとしては古典的で王道な枠組みではあります。
本作を鑑賞していてまず心惹かれるのは、絢音と友也が夜の美術館で過ごす場面でしょう。
幽霊なので宙を自在に飛ぶことができる絢音が、友也の魂(これも魂なので宙を自在に飛ぶことができる)を閉館時間中の美術館に案内します。
幽霊/魂状態である二人は壁をすり抜けることもできるので、空中を浮遊したり、壁抜けをしながら自由自在に作品を鑑賞することで、二人だけの楽しい時間を過ごすのです。
本作はアニメではあるのですが、写実的な背景の中で現実的な頭身の人物たちが動くので、さながら実写の青春ドラマのような心持ちで鑑賞することができる作品となっています。
その写実的な画風の中で、幽霊&魂が幻想的な夜の美術館内をファンタジックに動き回って遊ぶという非現実性。
実写作品ではCGを使ったバタ臭い描写になりがちで、逆にアニメーション作品ではいかにもアニメっぽい描写になりがちな場面を、現実と非現実の絶妙な混合で描いている点に本作の妙味を感じます。
造形を見れば現実的だけれど、色彩や光の具合がどこか幻想的なloundrawさんの画風。
その特徴が上手く使われている場面だと言えるでしょう。
また、物語にも一工夫あるのが本作の良いところ。
本作に他作品とは違った色合いを与えているのは、涼という高校生の存在です。
バスケットボールに勤しむ楽しい高校生活を送っていた涼は、ある日突然不治の病に罹ってしまい、余命9か月の宣告を受けている状態。
余命宣告をされて自暴自棄気味に気落ちしていた涼は、絢音との交流を通じて「生」への活力を取り戻します。
もちろん、絢音との交流を通じて心理的に変わっていくのは他の登場人物たちも同じなのですが、涼については他の登場人物たちとは毛色の違った結末が待っているのです。
何もかも上手くいって全てが幸福なハッピーエンド、なんてことはせずに、本作の空気感を大切にした絶妙なハッピーとアンハッピーを組み合わせて物語は展開します。
絶妙な温度感を保った終わらせ方は本作の非常に淡々とした雰囲気とも実に合っていて、切ない余韻を残してくれます。
演出的にも、いかにもドラマやアニメでありがちな「派手な描写」が敢えて排されていることで、生と死を扱った本作の迫真性が却って強調され、登場人物の造形にも現実感が出ています。
短編アニメ映画としては十分に見ごたえのある作品であり、きらりと輝く佳作です。
コメント