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【政治経済】「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ

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平成の通信簿
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1. 平成の通信簿

元号が平成から令和に変わり、様々な「平成総括本」は出版されている今日。

本書もそのバリエーションの一つですが、「識者が平成を語る」という形式ではなく、平成という時代において日本がどう変化したのかを様々なデータをもとに数値で見ようという変わり種。

最近のベストセラーの一つである「FACTFULNESS」を意識していると著者自身が本書の中で著している通り、二重の意味で流行を追った本です。

そんな本書に対する感想としては、面白いが薄いといったところでしょうか。

なるほど、平成元年から現在までというと、ちょうどバブル崩壊直前から令和元年までの期間ですので、様々な指標の数値的変遷には鮮烈なものが多くあります。

そしていまの日本には、高度経済成長を経験した世代から、バブルはもちろん2000年代前半にあった一瞬の好景気すら知らない世代が住んでいるわけで、高度経済成長を経験したことで「強い日本」の幻想をいまでも持っている人々にも、逆にバブル崩壊以降に生まれて「化け物じみ(ているように見え)た日本」を知らない世代にも、非常にいい刺激になる時期の切り取りかたになっております。

ただ、普段から社会問題に興味がある人ならば、一度は見たことがあったり、その分野に触れたことがなくてもなんとなくの直感通りのデータが揃ってしまっている感もあります。

それゆえ、普段から日本社会の在り方に関心を持っている人というよりは、むしろ、例えば入学したばかりの大学生(平成の半ば生まれ)あたりが手に取ると勉学への良い動機付けになるのではないでしょうか。

大学に入れるくらい豊かに育ち、大学に入る程度には社会への興味もぼんやりとはあるが、「身近なこと」以外は気にもとめてこなった若者にとって、「関係ないこと」と「関係あること」の中間を突いた本だと言えるでしょう。

2. 目次

1. 世界の中の日本
2. 経済・労働からみる30年
3. 家計・暮らしから見る30年
4. 身体・健康から見る30年

3. 感想

「2. 目次」で触れたとおり、本書は章ごとに4つのテーマに分けられており、それぞれ毛色の異なった表やグラフが紹介されます。

その中でも、第1章で紹介されるのは、GDPや人口といったマクロ的な基礎データの動向。

特に面白いと思ったのは、「01. 時価総額ランキング」「02 一人あたりGDP」「06 外国人」です。

「01. 時価総額ランキング」では、世界の時価総額ランキングベスト30が1989年と2018年で対比されています。

1989年には上位30社のうち21社を占めていた日本企業(残りは米国8社、英国1社)。

それが2018年には1社もランクインせず、最上位は全体で32位のトヨタ自動車という有様です。

もちろん、それだけでも日本経済の相対的衰退はよく分かるのですが、1989年にランクインしていた日本企業の性質にも注目すると面白いことに気づきます。

1989年の時価総額世界上位30社にランクインしていた日本企業21社のうち、銀行や証券会社は11社。

そして、実質国営のNTT、東京電力、関西電力で3社、残り7社には自動車、電気機器、鉄鋼メーカーが並びますが、このうち新日本製鐵、東芝、三菱重工なんかは親方日の丸企業と捉えることもできるでしょう。

つまり、バブルによって土地や株式を市場が異様に過大評価した結果 、あるいは無謀な貸し出しを見抜けなかった結果として高騰した銀行や証券会社で21社の過半数を占め、「日本はこれから無限に伸びる」だとか「無限に伸びる日本の国営企業なら安心」で買われる国営企業3社を入れるとそれで3分の2になってしまうわけです。

残りのうち、上述した3社(新日鐵・東芝・三菱重工)は親方日の丸ですから、結局、純粋に技術やビジネスモデルで評価されていたのは、トヨタ自動車、日立製作所、松下電器、日産自動車の4社だけだったということになります。

ここで2018年のランキングを見ますと、時価総額世界上位30社のうち、米国は20社、中国が5社、スイスが2社、韓国が1社、英国が1社、台湾が1社という陣容になっております。

米国は大手IT企業5社が筆頭で、金融系では銀行以外にもビザやマスターカードといったそのビジネスモデルで世界的寡占市場を構築している会社が多くランクインしています。

それに対し、中国はアリババとテンセントの2社以外は実質国営企業。

なんとなくですが、まだまだアメリカの時代が続くのではという感じがします。

もちろん、技術やビジネスモデルさえ市場が過大評価することは日常茶飯事ですが、卓越した技術やビジネスモデルが次々と生まれ成長していく土壌があるからこそ、そういった企業が投資家の期待を集めるのではないでしょうか。

一番「良かった」はずの時期に銀行や国営企業へと資金が集中していた日本とは一線を画しているといえるでしょう。

土地の値上がりや電力消費量の増加に期待がかかる国と、技術やビジネスモデルの成長に期待がかかる国、未来の明暗は火を見るよりも明らかですよね。

次に、「02 一人あたりGDP」 では、1989年から2017年までの一人当たりGDPベスト30の推移が示されています。

1989年には4位、2000年には2位(1位はルクセンブルク)だった日本の一人当たりGDPは2017年において25位まで後退しており、やはり相対的衰退は否めません。

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