新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その4

平成の通信簿
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1. 平成の通信簿 その4

「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その4」になります。「その3」はこちら。

「その4」で取り上げるのは第4章、「身体・健康から見る30年」。高齢化、医療費、体格及び身体能力、そして死に方といった、成熟社会・高齢化社会で課題となっている諸事項が取り上げられています。

2. 目次

1. 世界の中の日本
2. 経済・労働からみる30年
3. 家計・暮らしから見る30年
4. 身体・健康から見る30年

3. 感想:身体・健康からみる30年

第4章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「24. 高齢化」「25. 医療費」「26 身体」「27. 死」になります。 逼迫している一方で繊細な問題のため、普段は目をつぶりがちな日本の課題。それがデータとして赤裸々に表れている章になっています。

「24. 高齢化」と「25. 医療費」では、平成年間における寿命と高齢化率の伸長度合い、そして増え続ける医療費についてのデータが示されます。2016年では1990年対比で男女とも平均寿命が5歳延び、女性は87.1歳、男性81.0歳になりました。65歳以上が人口に占める高齢化率については、1990年に11.9%だったのが2017年には27%と人口の四分の一を超え、これは世界第1位の水準です。年齢の中央値は46.3歳と、既に人口の半分以上が45歳になっております。

そして、医療費の伸びも顕著です。公的保険給付と自己負担分を足した国民医療費は1989年に20兆円だったのが2017年には42兆円となり、GDP比でも5%から8%を占めるまでになっています。

こう書きますと高齢化が医療費の増加に拍車をかけているように感じられますが、高齢化の後に医療費をもってくる構成をとりつつ、そうではないんだと主張するのが本書の面白いところ。

2015年度の医療費の伸び3.8%要因別に分解すると、高齢化の影響は1.2%、残りは純粋な医療費の伸びであり、その真因は高額な薬の増加による薬価の上昇だと述べられます。効用ではなく原価に基づいて薬価が決まる制度のもとでは、ごく僅かな効果しかないのに開発費が高い薬をつくるインセンティブを製薬会社に与えてしまい、無暗に医療費を伸ばしてしまう点が指摘されています。

本書ではここまでは書かれていませんが、癌患者の生存率を1%上げる薬をつくるよりも、一般的な薬をより安価に(アフォーダブルに)提供するような工夫がある方がかえって命が救われるのではないかという考え方に一理あるのは確かです。命の選択をしている、と言われればそうですが、厳しい家計支出を考えればあらゆる政策の選択は命の選択だともいえます。私たちが直面する状況を赤裸々に示すデータであると思います。

「26. 身体」「27. 死」では日本人の体格や運動能力の平成年間における推移、そして死因の割合の推移などが示されます。「26. 身体」では運動能力の推移なども面白いデータなのですが、身長の伸びがついに止まったという部分が焦眉の点でしょう。栄養状況が改善し、遺伝子の限界まで到達したといえばそうなのでしょうが、所得の伸びなどと同様、もはや子供世代が親世代を様々な面で軽々と超えていくことは不可能な社会構造になったことをこの身体面でも感じさせるデータでした。また、「27. 死」では、死因第一位が悪性新生物(癌)、2位が心疾患であることなどが示されます。これ自体は特に驚きでもないのですが、本記事では本書にはない別の「死」のデータを紹介したいと思います。 平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/index.html)における性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/dl/10_h6.pdf)によると、2017年において悪性新生物により亡くなった人数は373,334人、心疾患により亡くなった人数は204,837人、脳血管疾患で亡くなった人数は109,880人、そして平成29年度衛生行政報告例の概況( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/17/dl/gaikyo.pdf)によると、平成29年度の人工妊娠中絶件数は164,621件となっています。中絶された受精卵は「日本人」ではないので死因の統計には含まれませんが、これを含めると死因の3位に割って入るというのはかなり衝撃ではないでしょうか。少子化解消、人口動態改善を掲げておきながら、これほどの数の中絶を強いなければならない社会構造もまた問題でしょう。

全体的にネガティブな論調になってしまいましたが、統計でみるとやはり平成の「失敗」がどうしても目についてしまいます。しかし、働き方改革や多様な価値観の包摂、移民の積極的受け入れなど、平成と令和の境目で様々な変化が起き始め、それを政府も推し進める態度を見せています。平成がより上に登っていくための踊り場だったと、そう思えるような令和時代になることを願うばかりです。

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