教養書 「戦争の世界史」その4 ウィリアム・H・マクニール 星3つ

戦争の世界史
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1. 戦争の世界史 その4

「戦争の世界史」レビュー最終編になります。「その4」ではついに第一次世界大戦と第二次世界大戦が取り上げられ、いわゆる国家総力戦体制が世界市場に登場する過程が明らかにされていきます。前編「その3」はこちら。

2. 目次

・上巻
第1章 古代および中世初期の戦争と社会
第2章 中国優位の時代 1000~1500年
第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年
第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年
第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年
第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年

・下巻
第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年
第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年
第9章 二十世紀の二つの世界大戦
第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代

3. 概要

第九章では、第一次世界大戦、第二次世界大戦を通じて総力戦体制が構築される過程が説明されます。

第一次世界大戦の勃発直後、各国では庶民の世論から軍・政府の上層部まで誰もが戦争は非常に短期間で終わると予想しておりました。

しかし、いざ蓋を開けてみれば始まったのは永遠にも思える塹壕戦。戦略の要は「いかに動くか」よりも「いかに留まるか」。つまり、傷病兵の補充や、食料・武器弾薬の補充へと移っていきます。

フランスは緒戦での人名損失が激しく、主要な製鉄所が仏独国境付近にあったためすぐに占領されてしまい、前線で戦う兵士はもちろん、武器や鉄鋼をつくるための工員にまで不足をきたすようになっていきます。そうした状況のもと、女性や老人、捕虜や傷痍軍人が公的な枠組みを通じて工員として動員されるようになり、ここに国家総力戦体制が整備されていきます。

ドイツは戦争序盤においてフランスほどの人的被害を被りはしませんでしたが、銅や硝酸塩といった原料をチリから輸入しているという都合上、原料を使える量に国家的な制限が存在しておりました。戦争継続のために軍需品を優先して生産しなければならない状況の中、陸軍省原料局が発足し、資源の国家的管理が始まります。

また、各国では極度な人員・物資・工業製品不足の中で、労働者の抵抗を経ることなく省人化を目的としたライン生産システムが各国で導入されていき、小火器から様々な生活用工業製品まで生産コストが格段に低くなっていきます。食料も配給制になり、医療も行政に管理されるようになって前線における伝染病予防に医療従事者たちが国家的に動員されるようになるのです。

こうやって、普段は反目しあっているはずの各アクター、具体的には、大企業、巨大労組、政府。それらが手を組んだ国家社会主義的体制が構築されていきました。平時ではなかなか成り立つはずもなく、戦時ですら第一次世界大戦を待たなければ現れなかったこの国家総力戦システムを創出した原動力は、戦争の規模と期間があまりにも大きく長かったからです。

これは非常に特別な臨時体制であって、この戦争に勝ちさえすれば総力戦体制は終わっていつもの日常が返って来るけれども、もし勝てなければ国ごと滅びると誰もが考えた。だから、さしたる抵抗運動もなく国家による統制が隅々まで一気にいきわたったのです。

戦争になれば国が日常生活の隅々までを管理し、資源の配分まで決めるようになる。これは第二次世界大戦を主たる「戦争」として学ぶ日本人の目線から見ると「そんなもん」に思えるかもしれませんが、実のところ、そんな現象が起こり始めたのは第一次世界大戦から、「戦争の世界史」の中ではここ百年ほどのことなのです。

そう、ここにきて初めて、軍隊が民間市場を凌駕し、制圧したのです。もはや軍隊が民間市場からどれだけの人員や資源を動員できるかに合わせて作戦を練るのではなく、軍隊の作戦にどれだけの人員や資源が必要かを計算し、それを「国全体」に発注するのが当たり前になっていきました。

そして、第二次世界大戦ではその管理領域が「国家」という単位を越えて超国籍的になっていきます。英米仏ソが食糧や武器弾薬の援助を各国間で調整しあったり、英米では軍隊の指揮権すら統合されていったりしました。日本も大東亜共栄圏でそれを行いましたが、連合国のそれと比べれば遥かに虚弱であり、結果、敗北という形で第二次世界大戦の終戦を迎えます。

第十章は戦後について語られるのですが、この章は戦後の軍事・戦争史をさらっとなぞるだけであまり目新しい要素がありませんでしたので、軽く流そうと思います。

米ソの核兵器開発競争と相互確証破壊による奇妙な国際平和。その中でも進む相手を出し抜こうとする兵器開発競争。レーザー光線や長距離弾道ミサイルの開発競争です。

そして、大国間の戦争は起こらなくなっても、代理戦争やアジア・中東・アフリカでの紛争はなおも続く。近代的な軍隊は権力を掌握し、市民を抑圧する手段として機能していて、様々な軍事政権が現れては消滅していきます。

4. 感想

古代から現代までを網羅したボリュームのある本だけ会ってレビューが四回に渡ってしまいました。やや取り留めのない「老教授の語り」感も否めない本ですが、随所に新しい発見もあり、なかなか良い本ではありました。

自由市場と軍隊の関係が変遷していく過程、武器の発展により戦争のやり方が変わっていき、国家行政の仕組みに影響を与えていく、また逆に、国家行政の仕組みが戦争のやり方に影響を与え、それが戦争の趨勢にとって決定的な役割を果たす場面。私が持っていなかった視点が多く、非常に新鮮でした。

まさに「戦争の世界史」というタイトル通りの一冊。「戦争」と「世界史」を戦記物としてではなくアカデミックな観点から読み解きたい人にはお薦めの一冊です。

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