オールタイムベスト 「小説」ベスト10 1~5位

小説
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1. オールタイムベスト「小説」

平素は当ブログをご覧いただきありがとうございます。

「小説」カテゴリの記事数が100件を越え、そろそろお薦め作品を纏めた記事があってもよいだろうと思い、当記事を作成することにいたしました。全体的に辛い評価が多いと思われる当ブログですが、Best10ともなるとさすがに星5つと星4つの作品が多くなります。

当ブログは5点満点で作品を評価しておりますが「評価の基準」を紹介した記事にも記載の通り、「普通」は星2つで、良作ならば星3つ、そして、星4つと5つは以下の定義に依っております。

星5つ:私を惹きつけてやまない、人生で何度も読み返したくなる名作中の名作
星4つ:おおむねねどの要素をとっても魅力的な、名作・名著に値する作品

そう、当記事で紹介する作品は「名作」ばかり。これを読まずには死ねないという珠玉の「名作」たちです。是非、紹介記事をご覧いただき、その魅力に気づいて頂ければと願っております。

第1位 「砂の女」 著:安部公房

栄光ある第1位は「砂の女」。安部公房の代表作であり、二十以上の言語に翻訳され、1967年度のフランス最優秀外国文学賞受賞作にも選ばれるなど国際的評価も高い作品です。

「都会で教師をしている男性がある日突然、田舎の集落の家屋に軟禁され、一人の女性との共同生活を始めさせられる。その家の壁からは常に砂がせり出してきていて、毎日砂掻きをしなければ家が砂に飲み込まれてしまう」

そんな突飛な設定ながら、「砂を掻く」という行為を都市化・近代化した社会における労働や日常生活の比喩として使い、男が陥れられた理不尽な状況こそ現代社会における日常そのものではないかという鋭い問いかけが発せられている作品。人間の持つ「承認欲求」を巧妙に利用した衝撃のラストも印象的で、SNSが普及し何もかもが(労働や育児さえ!!)見せびらかしの対象となって熾烈な承認争いが起きている令和社会に対する気の利いた皮肉になっています。

都市化・近代化していく社会の虚しさを1967年に書いた小説ながら、むしろ2020年の現代社会こそが「砂の女」の世界観に当時よりも寄っていっているのではないかと思わせるくらい未来予知的な作品でもあります。個人的には日本文学全体でのオールタイムベストワン作品だと信じてやみません。

第2位 「日の名残り」 著:カズオ・イシグロ

第2位は「日の名残り」。2017年度のノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロの作品です。日本では「わたしを離さないで」が有名かもしれませんが、イギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞を獲ってカズオ・イシグロの名前を不動のものとした本作こそが彼のキャリアの中での代表作だと言えるでしょう。

舞台となるのは第二次世界大戦終戦直後のイギリスで、厳格な性格の執事スティーブンスが旅をしながら彼のこれまでの執事生活を振り返るという形式で物語は語られていきます。スティーブンスはいちいち「それが理想の執事としてあるべき行動だったか」という視点で過去を語ろうとするのですが、その人生に対する頑なな態度こそが自分の言動の幅を狭め、却って自分の人生の価値を落としていたのではないかということに老スティーブンスが気付いていくという、その心境の変化に読みどころがあります。

「理想の執事とはこうあるべきだから」と自分自身を誤魔化し、重要な機会で人間として本質的に執るべきだった行動を執れなかったことを悔いるスティーブンス。そして、その視点を得たとき、スティーブンスが他者の行動を見る目も変わっていくのです。人間には職業や立場に応じて社会的世間的にこう振舞うべきと暗黙に決められている態度があります。しかし、そこからはみ出た行動をしたときにこそ一つの人生独自の価値が生まれていて、他者の「はみ出た」行動が表現しようとしていた特別な想いに答えられなかったこと、自分が決してはみ出ることができなかったことをスティーブンスは悔いるのです。

しかし、老い先短いスティーブンスにもまだ「日の名残り」とも言える人生の残余があいます。そう、スティーブンスにはまだ、自分自身を変える時間が残っているのです。自分を変えるため、スティーブンスが下した決断とは......。そのラストは誰もの心を奪い、胸の裡に暖かいものを広げることでしょう。

第3位 「イリヤの空、UFOの夏」 著:秋山瑞人

第3位は「イリヤの空、UFOの夏」。1位、2位と本格文学が続きましたが、本作は所謂ライトノベル作品です。アニメ化、漫画化、そしてゲーム化までされたヒット作ですが、本作が出版された2001年当時においても、そして現代のライトノベル文脈においても異色の作品でありまして、古き良きジュブナイルノベルにライトノベルのテイストを加えることで古典性と現代性を両立した作品になっております。

主人公は中学生の浅羽直之。夏休み最終日に中学校のプールに忍び込むのですが、そこには伊里野加奈という先客がおりました。自分と同年齢程度の容姿ですが、どうやら泳ぎ方を知らないらしい伊里野。浅羽は初対面の少女に水泳を教えるという不思議な経験をします。

そして翌日、その伊里野が浅羽のクラスに転校してくるのです。あまりに変わり者過ぎてクラスで浮いてしまう伊里野と、そんな伊里野と友情を深めていこうとする浅羽とその仲間たち。しかし、この伊里野という少女はとんでもない秘密を抱えておりまして、その秘密が浅羽を稀有で過酷な運命へと導きます。

そんな粗筋からも分かります通り、「ボーイ・ミーツ・ガール」かつ「少年少女のひと夏の経験」であるという、古来から受け継がれる伝統的な様式の作品です。

そして、そんな伝統的王道をまさに正面突破、圧倒的な表現力と描写力、巧みなストーリーの起伏で描き上げているのが本作です。中学生の青臭さ、大切な人を守るために必死になれる情熱、時おり挿入される思春期特有の心理的な翳りも胸を衝きます。

さらに、本作の魅力は「少年少女」たちの行動・心理描写に留まりません。浅羽や伊里野といった「中学生」の行動に感化されていく大人たちの描写も見事なのです。

浅羽の住む園原市には航空自衛軍園原基地があり、伊里野の抱える秘密は園原基地と密接に関係しています。「伊里野を園原中学校に入学させる」こと自体がとある軍事作戦の一環であり、物語序盤から浅羽たちの周囲には航空自衛軍の青年士官たちの影が纏わりついています。彼らが遂行している軍事作戦は伊里野にとってあまりに冷血非道な内容なのですが、当初、青年士官たちはその作戦に強くは疑問を抱いていません。

しかし、あまりにもとっつきにくい性格である伊里野に対して、それでも交流を深め、仲間意識を育てて友情を築いていく浅羽たちの姿。そして、ここぞという場面で捨て身になって伊里野を守ろうとする浅羽の姿に胸をうたれ、青年士官たちの心情は変わっていきます。伊里野という少女を犠牲にしてまで、大好きな人のために身を挺する浅羽の熱情に唾を吐きかけるような真似をしてまで、それでも遂行しなければならないくらい、この軍事作戦に意味はあるのだろうかと。

大人になると忘れてしまう感情、それを中学生の実直な行動が思い出させてくれて、そうして大人たちも変わっていく(そして、それでいて世間や社会というものは何も変わらない)。

ジュブナイルノベルでありながら、人生全般に渡る熱情と陰翳が強烈に表現された名作です。

第4位 「蹴りたい背中」 著:綿矢りさ

第4位は「蹴りたい背中」。小説を少しでも読む人ならば名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。2004年下半期の芥川賞を受賞した作品で、当時19歳だった綿矢りささんが史上最年少で受賞したことで有名になりました。ミリオンセラーを軽く超える大ヒット作で、私個人としても文学性とエンタメ性を兼ね備えた稀有な名作だと思っています。

主人公のハツは高校一年生。クラスで「余り物」の彼女は、同じく「余り物」のにな川という男子と親交を深めていく。二人を結び付けているのはオリチャンというアイドルで、にな川はオリチャンの大ファンであり、ハツは全くファンではないものの、一度だけオリチャンと出会い、会話を交わしたことがある。

「余り物」であることを気にしないふりして気にしているハツは、「余り物」であることなどどこ吹く風でオリチャンに執心するにな川に惹かれていきます。

しかし、そんなにな川もオリチャンに対して複雑な心境を抱いているのです。彼は大ファンでありながら、ライブなどのイベントに足を運んだことがない。信仰の対象に実際に会って、幻想が壊れてしまうのが怖いから。

それぞれ違った孤独を抱える「余り物」の二人が出会い、恐る恐るお互いの心に触れていく。多感な時期の甘くて熱くて苦くて痛い心情の濃やかで繊細な描写に心奪われる作品になっています。

中高生にとって「文学入門」となる作品であり、それ以上の世代にとっても「小説」の威力を見せつけられる作品だと思います。「青春もの」の小説は幾多ありますが、スクールカースト的な振る舞いや昭和の頃とは違った質感を伴うアイドルへの情景などの現代性がぎゅっと濃縮されていて、「蹴りたい背中」以降をつくった作品だといえるでしょう。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、「蹴りたい背中」より後に発売された作品は意識的にせよ無意識的にせよ「蹴りたい背中」の模倣になっていて、いまだにこのトレンドを変えるような作品は現れていないというのが私の認識です。

「高校生の青春」ものであり、熱血青春物語ではない作品という括りなら間違いなくNo1でしょう。是非、手に取ってみてください。

第5位 「暗いところで待ち合わせ」 著:乙一

第5位は「暗いところで待ち合わせ」。2000年代の大人気作家である乙一さんの作品です。乙一作品の中ではどちらかというとマイナーかもしれません。有名どころは「GOTH リストカット事件」などでしょう。

しかし、私はこの「暗いところで待ち合わせ」を推します。重度の視覚障害を抱え、手当を受給しながら一人孤独に暮らすミチルの家に、ある日、一人の人物が忍び込む。彼は殺人の容疑で追われているアキヒロという男なのだが、ミチルには彼の素性など知る由もない。ミチルが心中でくだしたある決断により、二人の奇妙な共同生活が始まる、というお話です。

まずもって設定が良いですよね。視覚障害者と殺人容疑者の共同生活となれば、その心理的な緊張感は相当なものです。そして、設定だけでなく展開も秀逸。ミチルが抱える孤独をアキヒロの優しさが溶かしていく様子は心に染みます。怯えながら恐れながら、目で見ることや言葉で話すという手段を封じられたまま、それでもお互いの柔らかい部分を探り合うようにして交流を深めていく二人の行動と心境が丁寧に綴られ、斬新でありながらリアリティがあり、恐怖と安寧を両立させることに成功している作品です。

一定の緊張感はあるけれど、でも、ほっこりした作品が読みたい。そんな人にお薦めの作品です。優れた作品が兼ね備えるべき、矛盾さえ孕んだ両要素を絶妙なバランスで実現しています。

オールタイムベスト 「小説カテゴリ」ベスト10 6~10位に続く

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