個性的な漫画家が集ったことで一部界隈では有名な週刊漫画誌、「ガロ」の執筆陣の一人であった、勝又進さんの作品集。第35回(2006年度)日本漫画家協会賞大賞を受賞した「赤い雪」が表題作です。絵柄はいわゆる「劇画」で、かつて存在した東北地方の旧い風俗がテーマとなっており、「遠野物語」に近いコンセプトと言えるかもしれません。

もちろん、そういった旧い文化の描き方は素晴らしいのでしょうが、説話的なもの、あるいは、人々の暮らしを描いたもの以上の、物語作品としての価値があったかといえば、そうではないという結論です。テンプレートのような「起承転結」や「劇的なクライマックス」を支持しているわけではありませんが、やはり人々の心を動かすための意図を持った構成がなければフィクション作品として良い評価を与えることは難しいでしょう。



〇あらすじ

・「桑いちご」

ドジョウ売りの男の子が歩いていると、桑の木に登って桑いちごを盗み食いしている女の子を見つける。この女の子は名前をトミ子といい、千寿館という宿の女中なのだが、妾の子であるため差別されていた。お互いに悪態をつき、喧嘩しながらも心のどこかでつながりを感じている二人。しかし、ある事をきっかけにトミ子が急にしおらしくなり......。

・「赤い雪」

酒造りのために酒蔵へ出稼ぎに来ている一太郎。女性を関わらせてはいけない酒造りの期間に備え、出稼ぎ前に女郎屋へ行っていた一太郎だったが、そのことは酒蔵の男たちのあいだでも、娘宿の女たちのあいだでも噂になっていた。そんな一太郎のもとに、恋人である艶子がやってくる。娘宿で甘酒を造るため、酒の酛をくすねろという艶子。しぶしぶ承諾し、くすねた一升瓶を木の根元に埋めておくことで受け渡しを成立させる方法を提案した一太郎。しかしその夜、酒の酛を取りに来た艶子となぜか鉢合わせてしまい......。


以上2編を含む10編を収録。


〇感想

あらすじからも分かる通り、「文明化する以前の東北の農村」を描いた作品といえるでしょう。当時の庶民の生活、そこにある悲哀や情というものが表れた作風で、私の知識不足のために理解しづらい部分があることもあり、脳内で「当時はこうだったんだろうなぁ」と補完しながら読み進めていきました。

かつて存在した東北の風俗を淡々と描く、それは悪くないといえば悪くないですし、こういう作品といえばこういう作品なのでしょう。もし、東北の農村で、うんと昔に生まれましたという方ならば何かしらの共感があるのかもしれませんし、民俗学に興味のある人ならば面白く読めるのかもしれません。

ただ、ひたすら淡々と東北の生活をなぞるだけになっている側面が強く、物語の巧妙さや漫画独特の表現による効果が打ち出されていると思える箇所は非常に少ないと感じます。
この作品はフィクションであり、漫画作品であることを考えると、なにか普遍的に、どんな時代のどんな人々も感動させるような要素が必要であるはずなのに、そこが欠落しています。それどころか、当時の東北の人々がこれを読んだとしても面白いとは思わないでしょう。現代において旧い東北の風俗を劇画で描くのが珍しいから商業出版されているだけであって、物語作品としての娯楽性や、芸術作品としての真理性を備えてはいません。僅かに面白いと感じる部分もそれは「かつての東北の風俗」が興味深いというだけであって、作者が物語や描写に施した工夫によるものではないのです。

こうした理由から、星は1つにならざるを得ないでしょう。