「ベルベット・キス」が代表作の女性漫画家、ハルミチヒロさんの短編集。多作な作家さんではありませんが、独自の路線で人気を確立しています。

あまり期待せずに読んだのですが、思いのほか良い作品で面白かったです。女性主人公の話が多く、女性の心理を細かく描きながらも、設定や展開において男性読者に対する訴求力も強いという物語が多いように思われました。絵柄も少年漫画・少女漫画・青年漫画のどれとも区分しがたい筆致で、「性」を強く描きながらも中性的という不思議な作風は魅力的ですね。



〇あらすじ

・「夜を止めないで」

左遷人事を受け、本社勤務から支社勤務に変わってしまった塩田。彼が駅前のベンチで落ち込んでいると、一人の女性が声をかけてきた。「一緒に旅館泊まってくれませんかね」。いきなりの申し出に狼狽する塩田だったが、半ばヤケクソになっていた彼はその申し出を受けてしまう。彼女はどうして見ず知らずの男を誘って旅館に泊まろうとしたのか。彼女との一泊でその理由が明らかとなり.......。


・「仮初めの花」

整形手術で美貌を手に入れた高井さや。見た目にコンプレックスを持ち、ブスとなじられ続けた学生生活を送った彼女は、その美貌で男たちを傷つけることを生きがいにしている。そんなある日、さやは川原卓という男性に出会う。「生まれたときから愛に囲まれて育ったっぽい」。彼に対してそんな印象を抱いたさやは、彼に言い寄っていく。いつも通り、さやは彼を傷つけようとするのだが......。


以上2編含む6篇を収録。


〇感想

この短編集はいいですね。長編の名場面(この場面が描きたかったんだろうなぁという場面)を切り取ったようなシーンを連続させつつも尻切れトンボにならず各編がしっかり完結しています。やや女性が男性に媚び過ぎ感もありますが、それでもたいていの漫画よりは男女の関係がより対等で、漫画的な表現や設定とリアリティのバランスがよくとれています。

冒頭にも述べましたが、絵柄も個性的で、一見スタンダードに思われて実は少年・少女・青年の中間的な絵柄でどれに属するとも言い難いことが魅力です。中性的ともいえる絵柄が男女双方の挙動や心理描写を自然なものにしており、誰もが性別関係なく持つであろう、寂しい、抱きしめられたいという気持ちや、人恋しさが屈託なく伝わってきます。

個人的に好きな話は「仮初めの花」ですが、それ以外の話も短編の持つボリューム以上の切なさを与えてくれます。秋は憂いの季節。表題作通り、夜に読むにはうってつけでしょう。