芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。

1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の特殊な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。



〇あらすじ

時は平安時代。帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。その息子こそ、光源氏。世の人が賛美するほど美しい青年となった源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨に忍び込むのだったが......。

〇感想

高校の古文の授業で苦杯をなめた方も多いと思います。おざなりに文法を教え、とにかくすぐに「訳せ」なんて授業をしますけれど、あれは嫌がらせ以外の何物でもないと思うんですよね。結局、昔の日本ではどのような物語がどのような文章で書かれていたかを理解すればよいのですから、さっさと現代語訳も横につけて教えたほうが文法の違いや現代語訳の感覚、「おかし」や「あわれ」のような象徴的単語の理解も早い気がします。「感想」以外は答えが決まっているわけですから。むしろ、「現代語訳」が必要になるくらい異なった言語文化で書かれた物語なのだということをまざまざと見せつけたほうが学習になるはずです。連続性を無意味に強調して「『感性』さえあればだいたいで分かるはず」のような授業をするほうが「過去の物語」を学ぶ意義を失ってしまうでしょう。言語構造もいくらかは思考を規定していて、現代日本語を日常で使う私たちと、古語を使っていた過去の人々ではまさに「言語の違いにより」発想や感性が異なる可能性があり、だからこそ、古文を原文で読み理解することは重要なのですから。

とはいえ、「教科書ガイド」では授業中に使用がばれて怒られるかもしれませんし、読んでいて楽しくないでしょう。しかも、受験では教科書に採用されている部分など出題されないわけですから、受験対策としても学校の授業や教科書ガイドは無意味なわけです。

そこでお勧めなのが、かみ砕かれた現代語訳で代表的な古典を読んでしまうこと。これをしておけば出題された瞬間にどんな話か思い出せますし、勉強熱心な学生さんならば古文と対比させることで効率的に現代語訳の方法や知識を身に着けることができるはずです。

と、なぜか受験の話題から始めてしまいましたが、小難しいと思われている「源氏物語」を楽しく読ませてくれるのがこの「絵草紙 源氏物語」。いかにも「平安時代」な挿絵がふんだんに収録されており、訳も非常に分かりやすくなっております。源氏物語は連作短編集なので、ライトノベル感覚で通勤・通学中にさらりと読めてしまうのも手軽で良いのではないでしょうか。

そして中身なのですが、これはもう評論しつくされているので私がとやかく言うのも野暮でしょう。あえて表現するならば「やりすぎな(超)古い少女漫画」。美しい女性を発見→源氏が閨に忍び込む→後ろめたさがあるので抵抗しつつも源氏の情熱的な口説きの前に身体を許してしまう→源氏or女性が事後に罪悪感で身悶える、の繰り返しで話は進みます。幼女から熟女まで、田舎娘から帝の娘まで、あらゆる「属性」の女性を出してくるところはどんな読者にとっても「共感できる登場人物」が存在するようにしようという紫式部の作家魂が感じられます。その中でもやはり紫の上がメインヒロインで、後にも先にも十歳前後で源氏を夢中にさせ、拉致にまで至らしめたのは彼女だけです。源氏にとって、ひと時の関係でよいと思った女性は数知れませんが、紫の上だけは「この美少女を自分好みに育て上げたい」と感じて攫うのですから、作者がメインヒロインや主人公に都合の良い自分を投影してしまうという傾向はあったのでしょう。紫の上の死をきっかけに源氏が出家を決意するという展開で最後は締められるのも、メタっぽくて好みです。

また、積極派の源氏に対してその息子の夕霧を奥手な性格にしつつ、雲井の雁との純愛エピソードを描くことで中盤~終盤にかけて物語の幅を広げてくるのも良いですね。源氏が強引に女性を襲うパターンに辟易としているところに清涼剤が投入されることで余計に夕霧を応援したい気持ちが高まります。このあたりになって、源氏が初めて妻を寝取られる(女三宮と柏木)という展開で因果応報を源氏が感じるのも良いアクセントになっています。

気軽に源氏物語を楽しみたいならば間違いなくお勧めの一冊。源氏没後を描いた「宇治十帖」が未収録なのが残念ですが、それでも値段には見合う本です。