「海と毒薬」や「沈黙」で有名な、戦後日本文学を代表する作家の一人、遠藤周作の作品。解説でも「軽小説である」と言及されている通り、遠藤周作の名声を押し上げた文学作品たちとは一線を画す、すらすらと呼んでいける青春小説です。

このように紹介するのも、多分に時代性のある大衆文学過ぎまして現代の小説として通用するとは言い難く、小説の構成上も難ありと思った次第。やはり遠藤周作は重厚な文学作品にこそ本領を発揮するのでしょう。



〇あらすじ

早良泰子(さがら やすこ)は長崎に住む女子高生。16歳の誕生日に、亡き母が遺した手紙を父から受け取る。手紙の内容は母が16歳の頃の思い出を記したもので、戦時中に出会った恩智勝之という青年との淡いロマンスの顛末に、善きこと美しきことを決して忘れないようにという母からのメッセージが添えられていた。

それから時が経ち、地元の短大に進学した泰子は、大学教員である雨宮先生から呼び止められる。英語劇に参加して欲しいと請われて承諾した泰子は、練習を通じてN大学の学生、西宗弘(にし むねひろ)との交流を深めていく。泰子の親友である水谷トシ、そして西の友人である星野、四人での島原旅行は特別な感慨を泰子に与えたのだった。

後に泰子はスチュワーデスとなり、トシと星野は長崎を出奔して一緒に暮らし始め、西が過激派に身を投じることもこの時の泰子は知らなかった。それぞれの道がどう離れてゆき、どう交錯するかも、知らなかった......。


〇感想

薄くて軽い小説です。すらすら読めるのですが、あまりに軽々しく物事が進むうえ、「秀才美人でスチュワーデスになる主人公」「ダメ男と共依存して横領にまで手を染める主人公の親友」「元は純朴な漁師だが大学生活で左翼思想に触れ過激派になる主人公の男友達」とステレオタイプ的な人物だらけが登場し、しかも、それらの登場人物がステレオタイプ的な動きをすることだけに終始するので、なんの驚きも意外性もない展開が続きます。また、「~の手紙」という章タイトルで延々とその人物の視点が展開されるのも小説をつまらなくしています。その手を使って多くの視点を描いたところで、だらだらとした印象を与えるだけです。文章はすらすら読めるのに、ちっとも話が進まず。そうと思ったら物語内時間が急に一言、二言で進んだりします。

また、スチュワーデスになった泰子がフランスで「偶然」恩智勝之に出会ったり、西が「偶然」泰子の搭乗機をハイジャックしたりと、あまりに「偶然」の要素が大きすぎて小説としてあまりにご都合主義的すぎます。現実に起これば間違いなく、良い意味でも悪い意味でも「奇跡」なのでしょうが、いくらでも嘘をつける小説でここまで「偶然」多用はしらけてしまいます。

さらに、トシが「ダメ男」である星野に人生を滅茶苦茶にされていく展開も、西が過激派に所属して身を滅ぼすことも伏線が見え見えで、予想通りの結末過ぎて逆に驚いたくらいです。バッドエンドの匂いを振りまいて読者の心理を露骨に誘導し、それをそのままの結果にするのではなんの捻りもなく拍子抜けしてしまいました。

そして何より、主人公である泰子自身があまりにも「何もしなさすぎ」ます。順当にスチュワーデスになり、ハイジャックに遭ったり恩智勝之に会ったりしても「色々な生き方があるなぁ」という感想一つで終わりです。泰子自身が動かなければ本当に困るような事件が起こることもなく、他人の生き方に突き動かされて意外な決断や行動をするということもありません。せっかくの小説なのですから、もっと読者を楽しませたり、あれこれ考えさせてください。

やはり「沈黙」を手に取った方が良かったのかもしれないという後悔。遠藤周作は文学作品をお勧めします。